著者のコラム一覧
飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長

環境エネルギー政策研究所所長。1959年、山口県生まれ。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻。脱原発を訴え全国で運動を展開中。「エネルギー進化論」ほか著書多数。

6年間ほぼ原発ゼロの現実の直視を

公開日: 更新日:

「 移りゆく社会に抗して」村上陽一郎著/青土社 2000円+税

 3・11福島第1原発事故を教訓に脱原発を選択する国が相次ぐなか、肝心の事故を引き起こした当事国の日本が原発に固執している。しかしその内実は、出口の見えない福島第1原発の廃炉や汚染水問題をはじめ、急増する甲状腺がんや被曝の問題、行き場を失う核のゴミ問題、核燃料サイクルの破綻、東芝の破綻など、日本の原子力は混迷を深めるばかりだ。

 なぜ日本は、問題を直視し、自ら変われないのか。政治の責任はもちろん、原子力ムラ、御用メディア、原発立地自治体など複雑に絡み合っているが、原子力や放射線を巡る言論の混乱や倒錯は何よりも「知識人」の責任が大きい。

 科学哲学者として高名な著者は、原発がこの6年間ほぼゼロでも何も問題なかったという現実を無視して、今もなお「即時原発ゼロが現実的でない」と主張する。自然エネルギーの飛躍的な成長という現実を知らないのか「自然に帰れ」は無理だと主張する。

 さらに著者は、原発事故の責任もある原子力安全・保安院の部会長を長年務めてきたことを、どこか他人事のように本書で告白する。この責任感を欠いた「告白」はショッキングだ。

「本物の知識人」ならば、現実に立脚して思考し哲学し、自らの責任感を持って現実と向き合い格闘するのではないか。

 著者が「三・一一の世紀に」と副題に掲げたとおり、あの大震災と原発事故は日本史にとどまらず世界史的な出来事だった。にもかかわらず、3・11後に「反・反原発論」で晩節を汚した吉本隆明氏、今もなお原発推進論に立つ立花隆氏、そして著者。

 こうした「知の巨人」たちが、どうしてあの破局的な原発事故を目の当たりにしながら、原発推進にしがみつくのか。いやむしろ、3・11の衝撃が「知の巨人」がまとっていた「高尚な言葉のベール」をはぎ取り、責任感の欠けた現実離れした内実を曝してしまったのかもしれない。

 本書は、その秘密を垣間見るかっこうの「反面教科書」だ。

【連載】明日を拓くエネルギー読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    【速報】髙橋光成がメジャー挑戦へ!ついに西武がゴーサイン、29日オリ戦に米スカウトずらり

  3. 3

    桑田佳祐も呆れた行状を知っていた? 思い出されるトラブルメーカーぶりと“長渕ソング騒動”

  4. 4

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  5. 5

    大接戦パV争いで日本ハムがソフトBに勝つ根拠…カギを握るのはCS進出に必死の楽天とオリ

  1. 6

    佐々木朗希に浮上「9月にもシャットダウン」…ワールドS連覇へ一丸のドジャースで蚊帳の外

  2. 7

    長渕剛に醜聞ハラスメント疑惑ラッシュのウラ…化けの皮が剥がれた“ハダカの王様”の断末魔

  3. 8

    「俺は帰る!」長嶋一茂“王様気取り”にテレビ業界から呆れ声…“親の七光だけで中身ナシ”の末路

  4. 9

    ロッテ佐々木朗希の「豹変」…記者会見で“釈明”も5年前からくすぶっていた強硬メジャー挑戦の不穏

  5. 10

    総裁選前倒し訴え旧安倍派“実名OK”は3人のみ…5人衆も「石破おろし」腰砕けの情けなさ