20年間泡沫候補を追った迫真の現場報告

公開日: 更新日:

「『黙殺』報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い」畠山理仁著/集英社

 泡沫候補というのは、何なのだろうと私が思ったきっかけは、小池百合子東京都知事が圧勝した昨年の都知事選挙だった。

 この選挙には上杉隆氏が立候補していたのだが、選挙報道では上杉氏も泡沫候補のひとりに位置付けられ、ほとんど報道されなかった。私はその扱いに違和感を覚えたのだ。上杉氏はTOKYO MXでレギュラー番組を持っていたし、私も何度かテレビで共演していたので、彼がきちんとした政策を打ち出してくることは、十分予想できた。

 実際、彼は財源を含めて、ある意味で小池氏を上回る整合性のある政策体系を構築していたのだが、大手メディアは、それをほとんど無視したのだ。

 本書は、20年間にわたって泡沫候補を追い続けたジャーナリストによる迫真の現場報告だ。

 第1章が、選挙の常連として有名なマック赤坂氏のドキュメント。第2章が、泡沫候補の生み出す仕掛けと、全候補を公平に報道しようとする著者の戦い。そして第3章が、昨年の東京都知事選の全候補者に関する報道だ。

 本書を読んで感じるのは、泡沫候補は命がけで選挙に臨み、とても個性的で、独自の政策を打ち出しているという事実だ。だから著者は、泡沫候補のことを「無頼系独立候補」と呼んでいる。都知事選での彼らの掲げる政策には、横田基地の返還、首都直下地震での死者ゼロ、福島への首都機能移転、都民税減税、カジノ誘致など、少なくとも真剣に議論しなければならない重要な提案が含まれている。ところが、「政策で候補者を選ぶべき」という建前を振りかざす大手メディアは、ことごとくそれらを無視して、主要候補だけの政策を紹介する。それどころか、内田前都議と小池氏の戦いといった劇場型政治の報道に明け暮れたのだ。

 ただ、少しだが希望の光も見えてきた。インターネットメディアが無頼系独立候補に発言の場を与え、彼らを支えるボランティアも出てきた。候補者同士の助け合いも生まれている。

 最後に強調しておきたいのは、本書は読み物として実に面白いということだ。文章の巧みさもあるが、足で稼いだ情報を積み上げているからだ。大手メディアは著者に学んでほしい。 ★★★

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    フジテレビに「女優を預けられない」大手プロが出演拒否…中居正広の女性トラブルで“蜜月関係”終わりの動き

  2. 2

    僕に激昂した闘将・星野監督はトレーナー室のドアを蹴破らんばかりの勢いで入ってきて…

  3. 3

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘

  4. 4

    中居正広氏&フジテレビ問題で残された疑問…文春記事に登場する「別の男性タレント」は誰なのか?

  5. 5

    元フジテレビ長谷川豊アナが“おすぎ上納”告白で実名…佐々木恭子アナは災難か自業自得か

  1. 6

    「まつもtoなかい」長渕剛"神回"が話題に…「仕事と愛どっち取る?」の恋愛トーク!

  2. 7

    生島ヒロシ降板騒動は起こるべくして起きた!コンプラ違反が当たり前…大物司会者のヤバイ言動の数々

  3. 8

    ソフトバンク上沢直之への“取材NG”で雑音封印の配慮…昨季の山川穂高と同様、個別取材すべて却下

  4. 9

    香取慎吾は「三重苦」を克服できるか? 主演ドラマ不発の原因は「不肖の兄」「反フジテレビ」と…

  5. 10

    ビートたけし「俺なんか悪いことばっかりしたけど…」 松本人志&中居正広に語っていた自身の“引き際”