読後、静かな感動が押し寄せてくる傑作

公開日: 更新日:

「四日間の奇蹟」浅倉卓弥著/宝島社文庫 690円+税

 音楽には不思議な力がある。精神治療において音楽療法が導入されているし、歩行訓練のリハビリなどでも音楽が効果を上げている。本書はそんな音楽がもたらした不思議な出来事を描いている。

【あらすじ】如月敬輔は幼い頃からピアニストとしての才能を開花させ、国内の各種コンクールを総なめし、高校卒業後はオーストリアへ留学、師の下でレッスンを重ねていた。

 そして3度目の新年を迎えようとしていたウィーンで事件は起きた。日本人の親子連れが強盗犯に襲撃される場面に遭遇し、幼い少女を守ろうとした如月は、左手の薬指を銃で撃たれ、ピアニストとしての未来を絶たれてしまう。両親を失った少女、千織には身寄りがなく、如月は千織と一緒に帰国することに。

 ところが千織は脳に障害があり、日常生活に大きな問題はないものの如月以外の人には心を開こうとしない。あるとき、千織には一度聴いた音楽を完璧に再現できる才能があることを発見し、試しにピアノのレッスンを施すと驚くべき上達ぶりを示した。以来、如月は千織と2人で全国の施設へ慰問演奏に出かけるようになった。

 今回訪れるのは国立脳科学研究所病院で、長期入院患者のための演奏会である。2人を迎えた病院スタッフの岩村真理子に、珍しく千織は警戒心を見せず心を開いた。実は真理子は如月の高校時代の後輩で、当時彼に憧れていたのだ。ここから4日間、3人は奇蹟のような出来事を経験することに――。

【読みどころ】物語は途中からファンタジーの世界へ入り込んでいくのだが、一見荒唐無稽な出来事が登場人物の心情に寄り添いながら丁寧に書かれていく。そして、彼らをつないでいるのは、ほかならぬ音楽なのだ。読後、静かな感動が押し寄せてくる傑作。  <石>

【連載】音楽をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「マラソン」と「大腸がん」に関連あり? ランナー100人への調査結果が全米で大きな波紋

  2. 2

    巨人FA捕手・甲斐拓也の“存在価値”はますます減少…同僚岸田が侍J選出でジリ貧状態

  3. 3

    高市総裁「首相指名」に漂う不安…自民党内は“厭戦ムード”も燻る火種、飛び交う「怪文書」の中身

  4. 4

    秋季関東大会で横浜高と再戦浮上、27連勝を止めた「今春の1勝」は半年を経てどう作用するか

  5. 5

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  1. 6

    高市自民、公明からの三行半で早くも本性露呈…「やられたら秒でやり返す」「イキらなきゃ負け」のオラオラ体質

  2. 7

    出来たとしても高市政権は短命…誰も見通せない激動政局の行方を徹底分析(前編)

  3. 8

    佐川宣寿元理財局長のメール開示「遺族と話し合う」…森友文書で加藤財務大臣が明言

  4. 9

    進次郎氏落選もダメージなし? 妻・滝川クリステルが目指した「幸せ家庭生活」と耳にしていた夫の実力

  5. 10

    侍J井端監督 強化試合メンバー発表の裏に「3つの深謀遠慮」…巨人・岡本和真が当選のまさか