「風神の手」道尾秀介著

公開日: 更新日:

 ひまわりが群れ咲く季節に、15歳の歩美は、母と2人、町の写真館を訪れた。そこは遺影の撮影を専門とする一風変わった写真館。母の命はもう長くない。店に掲げてあるいくつもの遺影のひとつに目を留めた母の表情が変わった。知っている人なのだろうか。

 アユの火振り漁が行われる川がある町を舞台にした4つの物語が、一編の長編ミステリーに収束。数十年の歳月を経て、町で起きた不可解な事件の謎が解き明かされていく。

 かつて、川の護岸整備工事のさなかに、薬剤流出事故が起きた。それを隠蔽しようとした工務店は倒産。事故は事件となり、一家は追われるように町を出る。工務店を経営していたのは歩美の祖父。当時高校生だった歩美の母は、淡い思いを寄せていた若い漁師とつらい別れをしていた。

 若い漁師とその父親、護岸工事の作業員とその息子、写真館の経営者、護岸工事を引き継いだ工務店の女社長……。3世代にわたる登場人物たちの人生が重なり合い、変転する。

 彼らの運命を決めたのは、あるとき河原に吹いた一陣の風なのか。めぐりあわせに翻弄されながらも懸命に生きる人間群像が複雑に絡み合い、大きな物語となって結実した。(朝日新聞出版 1700円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    ドジャース佐々木朗希「今季構想外」特別待遇剥奪でアリゾナ送還へ…かばい続けてきたロバーツ監督まで首捻る

  4. 4

    中日・中田翔がいよいよ崖っぷち…西武から“問題児”佐藤龍世を素行リスク覚悟で獲得の波紋

  5. 5

    西武は“緩い”から強い? 相内3度目「対外試合禁止」の裏側

  1. 6

    「1食228円」に国民激怒!自民・森山幹事長が言い放った一律2万円バラマキの“トンデモ根拠”

  2. 7

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  3. 8

    辞意固めたか、国民民主党・玉木代表…山尾志桜里vs伊藤孝恵“女の戦い”にウンザリ?

  4. 9

    STARTO社の新社長に名前があがった「元フジテレビ専務」の評判…一方で「キムタク社長」待望論も

  5. 10

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは