「八甲田山 消された真実」伊藤薫著
八甲田雪中行軍遭難事件は1902年1月発生した。陸軍歩兵第8師団第5連隊の210人が八甲田山で遭難、199人が死亡するという世界登山史上でもまれに見る最悪の事故だった。
ところが当時の陸軍(大本営)はこの事故そのものを隠蔽し、現場責任者に対する処分も極めて軽微なものとした。
しかし1964年、陸自第5普通科連隊の将校が事件の慰霊の意も込めて生き残った小原伍長に聞き取り調査を実施。その結果、明らかになったのは事故を引き起こした連隊の冬山での行軍に対する認識不足、訓練不足、経験不足、さらに現場の指揮官の功名心とその上司の面目という極めて人間的な側面が事故を招来せしめたことだ。
元自衛官という経歴を持つ著者は、これらの資料を長年集め、世に警鐘を鳴らすべく上梓した。(山と溪谷社 1700円+税)