「山怪 山人が語る不思議な話」田中康弘著

公開日: 更新日:

 日本各地の山や狩猟の現場を歩き回るフリーカメラマンの著者は、山で暮らすマタギから何かしら共通項のある不可思議な体験談を聞いてきた。民話にも昔話にもなりきれない数々のエピソードは、冬になれば雪に閉ざされる深い森に暮らす山人にとっていろり端で家族や子どもに繰り返し語られてきたものだったが、今や語る者さえ少なくなった。本書は、そんな消滅の危機にある民話の原石のような語りを集めたフィールドワークの集大成だ。

 突然現れて突然消える謎の夜店、姿はないのに聞こえる足音、誰もいない森から聞こえるチェーンソーの音、見つけたはずの池の消滅、馴染みのある森での迷子、猟銃で撃っても死なない不死身の白鹿、真夜中に消えた村人など奇妙なエピソードが次々に語られる。野営地のテントの中で寝ていたところ、鬼の手に肩をわしづかみにされたという著者自身の体験談も興味深い。どの話も、山と生身で対峙した人間の自然への畏怖が満ちている。(山と溪谷社 1200円+税)


【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    映画「国宝」ブームに水を差す歌舞伎界の醜聞…人間国宝の孫が“極秘妻”に凄絶DV

  2. 2

    「時代と寝た男」加納典明(22)撮影した女性500人のうち450人と関係を持ったのは本当ですか?「それは…」

  3. 3

    慶大医学部を辞退して東大理Ⅰに進んだ菊川怜の受け身な半生…高校は国内最難関の桜蔭卒

  4. 4

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  5. 5

    国分太一の不祥事からたった5日…TOKIOが電撃解散した「2つの理由」

  1. 6

    国分太一は会見ナシ“雲隠れ生活”ににじむ本心…自宅の電気は消え、元TBSの妻は近所に謝罪する事態に

  2. 7

    輸入米3万トン前倒し入札にコメ農家から悲鳴…新米の時期とモロかぶり米価下落の恐れ

  3. 8

    「ミタゾノ」松岡昌宏は旧ジャニタレたちの“鑑”? TOKIOで唯一オファーが絶えないワケ

  4. 9

    中居正広氏=フジ問題 トラブル後の『早いうちにふつうのやつね』メールの報道で事態さらに混迷

  5. 10

    くら寿司への迷惑行為 16歳少年の“悪ふざけ”が招くとてつもない代償