「洞窟探検家 CAVE EXPLORER」吉田勝次著

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 今月、タイの洞窟の深部に閉じ込められた少年たちの救出劇を世界中が固唾をのんで見守った。日々変わる水位や酸素の減少など、洞窟の恐ろしさ、自然の脅威を改めて感じた人も多いのではなかろうか。

 真っ暗闇の中で過ごした少年たちの不安な時間を想像するだけで、こちらまで息苦しくなる。しかし洞窟は地球上に唯一残された人類未踏の場所であり、実は多くの魅力にあふれていることを本書が教えてくれる。斯界の第一人者である洞窟探検家が自ら撮影した世界各地の洞窟の写真集だ。

 洞窟には縦穴と横穴があり、横穴は歩いて洞内に入って行けるが、縦穴はロープを使いクライミングの要領で底まで降りて行かなければならない。

 メキシコで友人に案内された洞窟では、400メートルもの縦穴を降下。その地底に広がる空間には地下河川が流れ、滝まである。池はエメラルドグリーンに輝き、天井からシャンデリアのように下がる鍾乳石を映し出している。

 一口に洞窟といっても、その洞内の状態は千差万別。イランでは世界最長、全長6キロにも及ぶ岩塩洞窟に潜入する。気温30度、湿度90%以上という過酷な環境の中、行程の半分は、カメラ機材が入った重いバッグをひきずりながら匍匐前進で進んでは、少し大きな空間に出るという作業の繰り返しだったという。そうしてたどり着いた大空間では、岩塩の地層の中を高濃度の塩水が流れており、これまで味わったことのない息苦しさを感じたという。

 かと思えば、オーストリアの標高2000メートル級の美しい山々の中にある洞窟の中は、まさに氷の宮殿。床からそそり立つ巨大な氷筍は、持ち込まれたライトに照らされ、青く輝く。

 ラオスでは未踏の石灰洞窟を探検。洞内の巨大な空間にそり立つ壁や地面の表面は、流れる水に含まれる石灰分が結晶化してフローストーンとなっており、独特の美しさをつくり出す。こうした光景を汚さないよう、このような場面では靴を脱ぎ素足で先に進むという。

 同じ洞窟の別の場所では、巨大な地下河川に遭遇。その水面を進む仲間が乗った小舟が、まるでアメンボのように見え、地底人でも潜んでいそうな地下空間の巨大なスケールは、映画のワンシーンを思わせる。

 その他、スペインやベトナムに加え、幻想的な地底湖がある南大東島の洞窟や、50個もの防水ライトを持ち込んで撮影した沖永良部島「銀水洞」の棚田のような「リムストーンプール」、溶岩の鉄分が酸化して洞内が赤く輝く富士山の火口列の底、そしてホームグラウンドの三重の洞窟などの日本の洞窟まで。国内外で1000以上もの洞窟を探検してきた著者のとっておきの写真を公開。

 洞窟への偏見を払拭するとともに、地球の知られざる姿を垣間見ることができるお薦めの書。

 (風濤社 2800円+税)


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