「ランチのアッコちゃん」柚木麻子著

公開日: 更新日:

 ある調査によれば、勤め人の男性のランチ代は541円、女性は512円。また、弁当持参率は男性が32・5%、女性が48・9%。男女ともに、外食あるいは弁当を買うならワンコイン、できれば弁当持参で昼食代を節約したいという傾向が強いようだ。本書に登場する派遣社員の澤田三智子も弁当持参組。

【あらすじ】三智子が勤めているのは小学校の教材を専門とする出版社。4年間付き合った恋人と別れたばかりの傷心の三智子が、いつものようにひとりデスクで弁当を広げていると、「アッコ」こと黒川敦子部長に声をかけられた。来週1週間アッコに弁当を作ってきてほしい。その代わり、アッコが月曜から金曜まで行く店とメニューを決めているランチに三智子が行くようにというのだ。

 なんとも奇妙な提案だが、部長に逆らうわけにもいかず、交換ランチを始めることに。月曜は近所の古びた建物にあるカレー専門店。聞くと、同じビルでデザイン事務所をやっているマスターが、趣味で昼休みだけ開けている隠れ家的カレー屋だという。

 火曜はワゴン車屋台のスムージー店、水曜は児童書専門店に寄ってから天ぷら屋へ、木曜は会社の屋上で社長と出前の寿司、金曜は月曜のカレー屋で店番。そうやって毎日新しい出会いを重ねているうちに、傷ついた心が癒えているのに気づく三智子だった――。

【読みどころ】表題作に続く「夜食のアッコちゃん」は、三智子たちの出版社が倒産し、別の会社で働き始めた三智子が社内の人間関係で悩んでいるところに、料理の移動販売を起業したアッコが現れ、またぞろ1週間、三智子を引き回す。

 アッコの前向きな姿勢を見ているといつの間にか元気が出てくる、人気の「ビタミン小説」。 <石>

(双葉社 537円+税)


【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景

  5. 5

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  3. 8

    三谷幸喜がスポーツ強豪校だった世田谷学園を選んだワケ 4年前に理系コースを新設した進学校

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋