「丸山眞男集 別集第四巻 正統と異端一」丸山眞男著、東京女子大学丸山眞男文庫編

公開日: 更新日:

 1970年代の初め、大きな書店の棚の一角に函(はこ)入りの「近代日本思想史講座」(筑摩書房)が並んでいたのをよく覚えている。函の背にシリーズタイトルが墨文字で記され、下方に赤い算用数字で巻数が示されている。1、3、4、5、6、7、8。2だけがない。品切れだったのではなく、刊行から10年以上経っていたそのときでも、第2巻だけ未完だったのだ。そろそろ第2巻が出るらしいという噂も当時よく耳にした。結局それは噂にとどまり、ついに刊行されることはなかったのだが。

 1959年から61年までに刊行された同講座は当初、全8巻別巻1を予定していたが、丸山眞男が編集担当の第2巻「正統と異端」と別巻は未完のまま70年代初頭には「幻の第2巻」として半ば伝説化していた。本書は、ほぼ半世紀ぶりに姿を現したその幻の片鱗である。

 丸山は「正統と異端」執筆のために早くから研究会を開き、晩年に至るまで断続的に開かれていたという。本書には、丸山が作成した未刊行の原稿断片・メモと研究会での討議の模様を文字に起こしたものなどを収録。「正統」と「異端」の字義の検討、キリスト教、マルクス・レーニン主義などに共通する正統の思考パターンの析出、国体論と国家神道について等々、断片的ではあるが、丸山が構想していた方向を垣間見ることができる。

 この中で丸山は「正統と異端」という問題の当初の基本的視点は、福沢諭吉のいう文明の精神を今日的に読み替え、それを「われわれのオーソドキシー」にすることであり、ひいては日本国憲法の理念に通じると語っている。またぞろ改憲問題が浮上した現在、日本国憲法の精神を「個人の基本的人権の理念の永久革命的な性格の承認」にあるとする丸山の言葉をいま一度噛みしめたい。

 <狸>

(岩波書店 4200円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    カーリング女子フォルティウス快進撃の裏にロコ・ソラーレからの恩恵 ミラノ五輪世界最終予選5連勝

  2. 2

    南原清隆「ヒルナンデス」終了報道で心配される“失業危機”…内村光良との不仲説の真相は?

  3. 3

    契約最終年の阿部巨人に大重圧…至上命令のV奪回は「ミスターのために」、松井秀喜監督誕生が既成事実化

  4. 4

    「対外試合禁止期間」に見直しの声があっても、私は気に入っているんです

  5. 5

    高市政権「調整役」不在でお手上げ状態…国会会期末迫るも法案審議グダグダの異例展開

  1. 6

    円満か?反旗か? 巨人オコエ電撃退団の舞台裏

  2. 7

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  3. 8

    箱根駅伝3連覇へ私が「手応え十分」と言える理由…青学大駅伝部の走りに期待して下さい!

  4. 9

    「日中戦争」5割弱が賛成 共同通信世論調査に心底、仰天…タガが外れた国の命運

  5. 10

    近藤真彦「合宿所」の思い出&武勇伝披露がブーメラン! 性加害の巣窟だったのに…「いつか話す」もスルー