著者のコラム一覧
江 弘毅編集集団「140B」取締役編集責任者

1958年、大阪・岸和田市生まれ。「ミーツ・リージョナル」の創刊に携わり12年間、編集長を務める。現在は編集集団「140B」の取締役編集責任者。神戸松蔭女子学院大学教授。著書に「『街的』ということ」「K氏の大阪弁ブンガク論」ほか多数。

「グルメぎらい」柏井壽著

公開日: 更新日:

 京都のグルメガイドを編集する際に、想定する読者は3種ある。

 1つ目は完全な観光客。先斗町がどの辺りにあってどんな街だとかをまったく知らない読者。2つ目はJR京都駅と阪急の河原町駅の位置関係が分かるぐらいの読者。大阪人のわたしの場合がそれだ。3つ目は京都地元読者のためのガイド。

 京都で生まれ育って市内で歯科医をしている柏井さんのこの新書は、割烹など高級料理店から豆腐屋までを素材に書いた「京都の食」ガイドとして読めるのだが、この3つの読者のどれにもあてはまる内容だ。

 真骨頂は京都に来る目的が「グルメ」であって、ミシュランの星付き割烹を片っ端から食べ歩いて、グルメサイトに書くレビュアーのような消費行動について、「やめなさい、それは京都にはそぐわない」という徹底的なスタンスである。

 メディアやネットにあふれるグルメ情報によって、「予約が取れない店自慢」や「新規オープン店に群がる」グルメライターや「自称グルメ」のブロガーたちが増え、それによって「モンスター化するシェフ」と彼らの「割烹のバブル化」に我慢ならない。

 それら有名店の実際の店名を挙げて、実情を評論することができる人はこの著者しかいない。このようなミシュラン的、グルメサイト的消費について、「淫食」「グルメの幼児化」と切って捨てるのだ。

 その代わりの紹介例は、行きつけの食堂だ。あるとき筆者は「アジフライあります」の張り紙を見つけて食べる。「悔しいくらいにおいしい」

 筆者はレジにいるオバチャンにきく。オバチャンは面倒くさそうに答える。

 ――どこのアジかて? そんなん知りまへんわ、いつもの魚屋さんが持ってきてくれたんでっさかい。キャベツ? 普通のキャベツですやろ? 難しいこときかんといてくださいな――

 そういう「ふつうにおいしい」店が多い大都市が京都である。京都地元読者をターゲットにした「京都本」を長く編集してきたわたしも深く頷けるところだ。(光文社 780円+税)

【連載】上方風味 味な本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  2. 2

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 3

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  4. 4

    佳子さま“ギリシャフィーバー”束の間「婚約内定近し」の噂…スクープ合戦の火ブタが切られた

  5. 5

    狭まる維新包囲網…関西で「国保逃れ」追及の動き加速、年明けには永田町にも飛び火確実

  1. 6

    和久田麻由子アナNHK退職で桑子真帆アナ一強体制確立! 「フリー化」封印し局内で出世街道爆走へ

  2. 7

    松田聖子は「45周年」でも露出激減のナゾと現在地 26日にオールナイトニッポンGOLD出演で注目

  3. 8

    田原俊彦「姉妹は塾なし」…苦しい家計を母が支えて山梨県立甲府工業高校土木科を無事卒業

  4. 9

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  5. 10

    実業家でタレントの宮崎麗果に脱税報道 妻と“成り金アピール”元EXILEの黒木啓司の現在と今後