著者のコラム一覧
江 弘毅編集集団「140B」取締役編集責任者

1958年、大阪・岸和田市生まれ。「ミーツ・リージョナル」の創刊に携わり12年間、編集長を務める。現在は編集集団「140B」の取締役編集責任者。神戸松蔭女子学院大学教授。著書に「『街的』ということ」「K氏の大阪弁ブンガク論」ほか多数。

「山口組と日本」宮崎学著

公開日: 更新日:

 プロフィルに「父はヤクザで土建業を営む寺村組組長」とあるように、著者はヤクザの世界から「もう一つの日本近現代史」を見ていく。その題材が大正4年に神戸に誕生し、戦前、戦後を通して日本最大の暴力団組織として君臨する「山口組」だ。

 その山口組から2015年に「神戸山口組」が分裂、さらに2017年に「任侠山口組」と3分裂し、わたしが住む神戸では「また抗争かいな。こわいなあ」という街の声が聞こえる。

 そんな折に、「特にヤクザを『称揚』することはない。過剰に排除しなければいいだけである」(156ページ)、「やはり『世間は実はヤクザが好き』なのであろう」(278ページ)というスタンスで、ミナト神戸を主な舞台とする山口組すなわちヤクザ組織と社会の関係性と時代の変貌を淡々と記述していく。これは宮崎学しかできない仕事だ。

 そこから導かれる結論は「古き良きヤクザを破壊したのは、過剰な暴力団排除であり、警察である。本来のヤクザとは、地元の顔役であり、全国制覇など目指していなかった」(253ページ)ということである。

 ヤクザに限らず組織は追い込まれると強くなる。さらに強くなり勢力が広大になると今度は組織防衛に走る。まるでコンプライアンスのように組員の規律を厳しくしたり、それはもうヤクザではなくビジネスの組織である。

 この著者の感覚に「なるほどなあ」と思う半面、「ヤクザに良い悪いなんかあるかいな」と断じるアンビバレンツな感情。それが長田区の路上での射殺事件を見たり聞いたりして怯えつつ、銀行のキャッシュカードも持てず、携帯電話も契約できないし、マンションを借りたりクルマも買えないヤクザの現状を知る、神戸の街場の人々の複雑怪奇なヤクザ感と重なるのだ。神戸、大阪そして著者の育った京都は、ヤクザと庶民が他所よりも近しい。この新書が神戸三宮の主要書店で、平積み多面展開されているのを見ると、そのことがよく分かる。

(祥伝社860円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも