「文字と組織の世界史」鈴木董著

公開日: 更新日:

 1957年、梅棹忠夫は「文明の生態史観」で新しい文明史モデルを提示し、大きな反響を呼んだ。梅棹は従来の西洋と東洋という区分ではなく、ユーラシア大陸の両端にある西ヨーロッパと日本を第1地域、間に位置するその他の地域を第2地域とする新たな区分けを提唱。同じ第1地域の西欧と日本の文明史の類似性を指摘し、その地域が資本主義先進国となった理由を説いた。

 それから60年。「新しい文明史観」をうたう本書は文字に着目し、同じ文字を使用する地域同士がどのような文化的共通性を醸成していったのか、そして他の文字文化圏といかなるあつれきを生じてきたのかを概観する。

 注目すべきは、言語・宗教・民族といった区分けと文字文化圏は必ずしも一致せず、文字文化圏という観点を導入することで新たな歴史の動きが見えてくることだ。本書で取り上げるのは、ラテン文字世界、ギリシャ・キリル文字世界、梵字(ブラーフミー文字)世界、漢字世界、アラビア文字世界の5つの文字文化圏。漢字を除いて、他の4つはいずれも古代エジプトのヒエログリフを祖としている。そのうちラテン文字は西欧キリスト教世界、ギリシャ・キリル文字は東欧正教世界、アラビア文字はイスラム世界とほぼ重なっていく。

 とはいえ、東欧世界にもラテン文字世界が入り込んでおり、同じ東欧でもポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーはラテン文字世界で、それらの諸国が冷戦終結後いち早くEUへ加盟したことは、文字文化圏の求心力といえるだろう。

 漢字世界でいえば、かつて属していたベトナム、南北朝鮮が抜けて、現在残っているのは中国、台湾、日本のみ。世界的に英語偏重が強まっているが、文明の基盤は多様性にあるはず。漢字文化の見直しも必要では? <狸>

(山川出版社 2000円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    参政党・梅村みずほ議員の“怖すぎる”言論弾圧…「西麻布の母」名乗るX匿名アカに訴訟チラつかせ口封じ

  2. 2

    二階堂ふみと電撃婚したカズレーザーの超個性派言行録…「頑張らない」をモットーに年間200冊を読破

  3. 3

    選挙3連敗でも「#辞めるな」拡大…石破政権に自民党9月人事&内閣改造で政権延命のウルトラC

  4. 4

    11歳差、バイセクシュアルを公言…二階堂ふみがカズレーザーにベタ惚れした理由

  5. 5

    最速158キロ健大高崎・石垣元気を独占直撃!「最も関心があるプロ球団はどこですか?」

  1. 6

    日本ハム中田翔「暴力事件」一部始終とその深層 後輩投手の顔面にこうして拳を振り上げた

  2. 7

    「デビルマン」(全4巻)永井豪作

  3. 8

    【広陵OB】今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  4. 9

    広陵・中井監督が語っていた「部員は全員家族」…今となっては“ブーメラン”な指導方針と哲学の数々

  5. 10

    キンプリ永瀬廉が大阪学芸高から日出高校に転校することになった家庭事情 大学は明治学院に進学