「酒から教わった大切なこと」東理夫著

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「酒にまつわる文章ほど、その人の本質がうかがえるものはないし、一方、そういう文章ほど人は自分をとりつくろう。とりつくろうところで、その人の本性が見える」とは、著者の言。つまり、徹頭徹尾、酒について書かれた本書には、著者の本質、本性がふんだんに織り込まれていることになる。

 アメリカ文化を中心に、音楽、食べ物、車、道路、ミステリーと幅広い分野に造詣が深く、ブルーグラス奏者でもある著者は酒の知識も豊富で、バーボンやマティーニについての本も著している。

 本書はスコッチ、カクテル、日本酒などあらゆる酒に関するコラム全118本が収められている。たとえば、ジャズ評論家の久保田二郎から伝授された正しいオンザロックの飲み方。親指と小指と薬指でグラスの底の方を持ち、残りの2本指でたばこを挟み、左手は隣の女性の腰を抱く――著者によるとこれはレトリックで実行は不可能とのこと。

 ウイスキーの水割りは実は繊細な飲み物で、京都の古いバーの主人はドアを開けて入ってくる客の表情を見て水割りの濃さを決める。ハイボールを日本に紹介したのは元巨人軍監督の水原茂で、学生時代のアメリカ遠征で出合ったそれはバーボンをソーダで割ったものだった等々、とっておきの話が満載。小説、映画、音楽に登場する酒にまつわる描写がふんだんに紹介されているのもうれしい。かつて読んだ物語、見た映像が酒の場面とほどよくブレンドされ懐かしく蘇ってくる。

 バーのカウンターで偶然隣り合わせた人が、「そうそう、こんな話知ってる?」と話しかけてきて、その面白さについ聞き入ってしまい、気づくと夜が白々と明けている。そんな貴重なひとときを与えてくれる。この心地良い語り口こそが著者の本質、本性なのだろう。(天夢人 1500円+税)

 <狸>

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