「ハゲの文化史」荒俣宏氏

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 悩ましいハゲ問題に始まり、古今東西の毛にまつわるトリビアをコンパクトにまとめた一冊だ。

 20年ほど前に出版した「髪の文化史」をベースに、飲み薬や植毛技術、ウィッグなど驚きの「ハゲ脱出法」について取材した最新情報がたっぷり加えられている。

「今回取材して一番驚いたのはウィッグです。もう、いくらハゲても大丈夫! と実感を持って断言しますよ。本当に、凄い進化を遂げています。手のひらサイズで、生え際も見分けがつかない。試しに着けたら腕にも髪の毛が生えた(ように見える)んです。汗もプールも問題なくて、メンテナンスも月1回くらい。いまだにテレビなんかで見るからにヅラ、という出演者を見かけますけど、あれは凄く古いタイプを使い続けているんでしょうね」

 本書では「ハゲ学」の権威である大阪大学大学院教授・板見智先生やアートネイチャーに取材し、最新の飲み薬など科学的根拠のある発毛法や、植毛の実態について冒頭で丁寧に解説する。まずは物理的な解決策を示した後に「そもそも人にとって髪とは」「なぜハゲに悩むのか」といった精神面を文化史からひもといていく趣向だ。博物学者らしく、話題は世界の神話から日本の戦国~近代の文化・風俗まで幅広い。

「僕は昔から、毛という語にビビッと反応する『毛感度』みたいなものがあるかもしれません。いざ書こうと思ってから資料を探して見つかるものじゃないので。怪奇ものをずっと書いてきたことも関係しているでしょうね。というのも、怪奇において毛は重要なんです。乱れ髪の幽霊なんかに象徴されるように、日本の恐怖表現を代表するのが髪の毛。女の髪を結ぶことで聖なる力を抑えるとか、男が髪を切られることで権力を失うとか、いろいろパターンがあります」

 髪以外にも、仏の眉間にあるイボ状のものは実は霊験あらたかな毛である、古代ギリシャでは男性も陰毛を処理していたなど、体毛についてのトリビアが盛りだくさんだ。中でも、ハゲることへの悩みや対策の歴史についてはボリュームが大きい。19世紀に爆発的にヒットした養毛剤「マカッサル油」や、長寿と育毛効果がうたわれた発明品「静電気ベッド」などが詳しく紹介されている。

「今の日本だと、この本に書いたようなさまざまな理由でハゲがマイナス要素になっていますよね。自分の外見からマイナスを減らして、平均的理想像に近づけようとするのは、20世紀的大量消費社会が生んだ考え方なんですよ。標準体重や摂取カロリー基準のように何でも数値化して、平均がいい、というね。でもハゲは本来、大切な個性のひとつなんです。理想の外見なんて国や時代によっても変わりますしね。例えば僕らの若い頃は唇が厚いとバカにされましたけど、最近はセクシーだとか若く見えるとかで、わざわざ注射して分厚くする人もいるでしょ。ハゲだって今後どう変わるか分かりませんよ」

 男性がハゲることに動揺するのは、「見た目を変える」ことに不慣れなせいもあるのではと著者は言う。

「女性はお化粧で慣れているけれども、男性は自分の見た目を『良く変える』ことに慣れていない人が多いでしょ。でもここで紹介したように、ハゲ克服の方法は今やたくさんあるわけです。まずは男性も自分の毛に対して関心を持つことが大事ですね。この本をネタに、飲み屋の話題にしてみたらどうでしょう」 (ポプラ社 820円+税)

▽あらまた・ひろし 1947年、東京生まれ。作家、博物学者。武蔵野美術大学客員教授、サイバー大学客員教授。ベストセラーとなった「帝都物語」で日本SF大賞、「世界大博物辞典」でサントリー学芸賞受賞。神秘学・博物学・風水など多分野にわたり精力的に執筆活動を続け、著書・訳書多数。

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