「もっと塩味を!」林真理子著

公開日: 更新日:

 現在、東京の飲食店でミシュランの星が付いているのは230軒。本場パリの118軒を上回り世界一だそうだ。最近でこそ、ミシュランの星が付いているといってもさほど珍しくはないが、40年ほど前には、日本人がフランスでミシュランの星付きのレストランで食事することすら珍しく、まして日本人がフランスで店を開き、星を獲得するなどは夢のまた夢と思われていた。本書は、そんな時代にミシュランの星獲得の夢を追いかけた一人の女性の物語。

【あらすじ】美佐子は郷里の和歌山でのんびりと育ち、短大卒業後、地元の名家の御曹司と結婚。2人の子供をもうけ、夫の浮気癖には困らされたものの順風な生活を送っていた。

 ある日、美佐子は徳島のフランス料理屋で生まれて初めて本格的なフランス料理を食べ、その味に圧倒される。以来、美佐子はフランス料理の店を持つことが夢になる。

 そんな美佐子の運命を変えたのが東京の一流フランス料理店のシェフの大久保。大久保は並々ならぬ鋭敏な舌を持つ美佐子に驚き、彼女にフランス料理の精髄を叩き込んでいく。フランス料理の官能的な味わいに魅せられた美佐子は夫と子供を捨て、大久保の元へ飛び込むが、大久保はそれを拒否。途方に暮れる美佐子だが、天性の楽天家の彼女は独自に道を切り開き、天才シェフ直人に出会う。

 直人と結婚し、苦労の末、フランスに開いた店が念願のミシュランの星を獲得したとの朗報を受けた美佐子の元に信じられない知らせが届く……。

【読みどころ】ともすれば「細うで繁盛記」のような、けなげな女将さんの苦労話といった感じになる物語を、ピシッと背筋の伸びたマダムの粋な人生として描いたところが妙味。 <石>(中央公論新社 533円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か