朝暮三文(作家)

公開日: 更新日:

7月×日 自著「おつまミステリー」が好評。なのでハヤカワ文庫、ハーラン・エリスン編「危険なヴィジョン2」(浅倉久志他訳 1200円)と既刊の1を読む。10数年前、「闇の展覧会」が20年ぶりで復刊された際に私はこのアンソロジーの完結を解説で切望した。

 なにしろ「危険なヴィジョン」は邦訳が3分冊の1のみで頓挫していたのだ。名アンソロジーである「闇の展覧会」は本書に触発され、出版された。つまり怒濤のニューウェーブSF時代の先駆書(伝説的革命)が、とうとう全貌を30年ぶりに明らかにするのだ。歓喜せぬ者がいようか。

 文庫の価格としては、やや高価だが(あくまで噂)によると没故しているものの編者ハーラン・エリスンは翻訳契約にうるさかったらしく、前回の積み残しも反映しているらしい。だが前述の顛末から手が伸びるのは当然だ。ずらりと並ぶ寄稿者を見よ。ロバート・シルヴァーバーグ、フレデリック・ポール、フリッツ・ライバーにフィリップ・K・ディック。続く3にはディレイニー、スタージョンにスラデック。そこにロバート・ブロック、ヘンリー・スレッサーなどの推理系が加わる。あの名手たちの未訳=新作が読めるのだ。しかも全盛期の姿で。

 一読した結果、思う。なんとグッド・オールドなのか。編者の執拗な序文や解説。フィリップ・ホセ・ファーマーの饒舌は開高健か。フレデリック・ポールのドライさは邦国の純文学の第三の新人っぽい。オールディスは掛け値なしの傑作。

 すでにSF小説は固有のジャンルではなく、アニメ、ゲームなど、あらゆる表現分野に拡散したため、幸福なるジャンル消滅に瀕している。だが隣接するファンタジー小説家である私は現行状況に、どこかプラスティックを想起していた。なにかが物足りないと。

 だが本書にはSFよ、文学となれ。筆も折れよとのエネルギーを感じる。定年後にデモに参加したら、まだ同胞は世界革命を目指していたみたいだ。本当に続く最後の1冊を出してくれるんだなとおびえを伝えたい。その造反は有理でないぞ。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    横浜とのFA交渉で引っ掛かった森祇晶監督の冷淡 落合博満さんは非通知着信で「探り」を入れてきた

  2. 2

    複雑なコードとリズムを世に広めた編曲 松任谷正隆の偉業

  3. 3

    中学受験で慶応普通部に進んだ石坂浩二も圧倒された「幼稚舎」組の生意気さ 大学時代に石井ふく子の目にとまる

  4. 4

    ドジャース内野手ベッツのWBC不参加は大谷翔平、佐々木朗希、山本由伸のレギュラーシーズンに追い風

  5. 5

    「年賀状じまい」宣言は失礼になる? SNS《正月早々、気分が悪い》の心理と伝え方の正解

  1. 6

    国宝級イケメンの松村北斗は転校した堀越高校から亜細亜大に進学 仕事と学業の両立をしっかり

  2. 7

    放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK)はNetflixの向こうを貼るとんでもないSFドラマ

  3. 8

    維新のちょろまかし「国保逃れ」疑惑が早くも炎上急拡大! 地方議会でも糾弾や追及の動き

  4. 9

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  5. 10

    【京都府立鴨沂高校】という沢田研二の出身校の歩き方