「世界の祭りと衣装」パイ インターナショナル編

公開日: 更新日:

 グローバル化にもめげず、それぞれの土地に受け継がれ、大切に守られてきた地域の祭り。住人たちがそのときばかりは、民族衣装を身にまとい、和気あいあい、時には熱狂的にひとときを過ごす祭りは、各民族・地域の象徴でもある。

 本書は、世界各地にあまたあるそんな祭りの中から、衣装や装飾が特徴的なものを選び紹介するビジュアルガイドブック。

 ブルガリアの「バラ祭り」は、バラの模様の刺繍が施された民族衣装で着飾った可憐な乙女たちがパレードに登場し、「バラの女王」を選出するなど、まさにバラ尽くしの祭り。同国ではバラは神聖な花とみなされ、その大栽培地の中心・カザンラクで1903年から行われるようになったという。

 ドイツの美しい中世の町ディンケルスビュールで催される「子ども祭り」は、17世紀の30年戦争の際に町を占領したスウェーデン軍がかわいい子どもたちの姿を見て焼き打ちを思いとどまった伝説に由来。さまざまな衣装で着飾った子どもたちがパレードを行う。

 一方、同じドイツやオーストリアの山岳地帯では、毛むくじゃらの体にベルを下げ、湾曲した大きな角と恐ろしい仮面をつけた伝説の生き物「クランプス」が聖ニコラウスの日の前夜に現れ、子どもたちを脅かしながら良い子でいるように諭しながら行進する祭りがある。その異様な姿と行動は、日本の「なまはげ」そっくりだ。

 ベルギーのイーペルで3年ごとに行われる「猫祭り」は、町中が猫のモチーフであふれ、猫の仮装や山車が集結するパレードの最後には猫の王様「シーペル」などの巨大な猫の人形が登場。中世「魔女の使い」や「ペストをもたらす」という迷信から猫を同地の繊維会館の鐘楼から投げたという負の歴史から生まれた祭りだ。

 西洋の祭りは、前述のバラ祭りのように五穀豊穣の喜びや祈り、祖先崇拝の儀礼など庶民の生活から生まれたものと、キリストの聖血を祭るベルギー・ブルージュの「昇天祭」などのようにキリスト教の教会行事が起源となるものとのふたつに分けられる。

 オランダのマーストリヒトやフランス・ニースなど西欧各地で行われる謝肉祭(カーニバル)は、この2種類の祭りが組み合わさったものだという。

 他にも、白い伝統衣装「バイアーナドレス」を着た女性たちが香水と花をまきながら教会の前の階段を掃除するブラジル・サルバドールのユニークな祭り「ラバージェン・ド・ボンフィン」や、水牛の角の形をした顔の何倍もの大きなヒゲを結った少女たちが輪になって踊る中国・貴州の長角ミャオ族の祭り「跳花坡」など、世界80余地域の祭りを紹介。

 まさに文化風俗の競演。写真の人々の屈託のない笑顔に、音楽まで聞こえてきそうで、見ているだけでこちらも楽しくなってくる。

(パイ インターナショナル 1850円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    どこよりも早い2026年国内女子ゴルフ大予想 女王候補5人の前に立ちはだかるのはこの選手

  4. 4

    「五十年目の俺たちの旅」最新映画が公開 “オメダ“役の田中健を直撃 「これで終わってもいいと思えるくらいの作品」

  5. 5

    「M-1グランプリ2025」超ダークホースの「たくろう」が初の決勝進出で圧勝したワケ

  1. 6

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  2. 7

    福原愛が再婚&オメデタも世論は冷ややか…再燃する「W不倫疑惑」と略奪愛報道の“後始末”

  3. 8

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  4. 9

    匂わせか、偶然か…Travis Japan松田元太と前田敦子の《お揃い》疑惑にファンがザワつく微妙なワケ

  5. 10

    官邸幹部「核保有」発言不問の不気味な“魂胆” 高市政権の姑息な軍国化は年明けに暴走する