「スノーデン独白」エドワード・スノーデン著 山形浩生訳

公開日: 更新日:

 2009年、エドワード・スノーデンは東京にいた。横田基地内にあるNSA(アメリカ国家安全保障局)の太平洋技術センターで、システムアナリストとして働いていた。

 あるとき、中国の諜報活動に関する会議で、急きょ担当者の代理を務める羽目になった。その準備のためにNSAやCIAのネットワークから極秘情報を洗い出しているとき、スノーデンはある疑念を抱く。一党独裁国家の中国が公然とやっている市民監視を、民主主義国家であるはずのアメリカもこっそりやっているのではないか。調べていくうちに疑念は確信に変わった。証拠がいくつも見つかった。9・11以来、テロ対策を理由に導入された監視プログラムは、市民の自由を脅かす兵器と化していた。

 2013年6月、スノーデンは良心の命じるままに、内部告発に踏み切る。29歳になった自分への誕生日プレゼントとして。

 スノーデンは1983年、アメリカ合衆国ノースカロライナ州で生まれた。子供時代に黎明期のインターネットに夢中になり、インターネットとともに成長した。父は沿岸警備隊員で、母は連邦裁判所の職員。9・11後、愛国心から陸軍入隊を志願したが、訓練中のケガで挫折。持ち前のIT技術を生かし、CIAやNSAで公職に就いた。

 職務上、機密情報を知り得たスノーデンは、アメリカ政府が市民の同意もないままに世界的な大量監視システムを開発配備していたという事実に行き着く。大好きだったインターネットにも、祖国にも裏切られた思いのスノーデンは、葛藤を乗り越えて、国家を相手にたった一人の反乱を起こす。そのスリリングな過程と心の揺れが詳細に語られ、小説のようなドキュメンタリーに仕上がっている。スノーデンは今、亡命中のロシアで、デジタル時代の市民の自由保護について発信を続けている。彼の戦いは終わっていない。

 (河出書房新社 1900円+税)

【連載】人間が面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 3

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  4. 4

    国分太一との協議内容を“週刊誌にリーク”と言及…日本テレビ社長会見の波紋と、噴出した疑問の声

  5. 5

    衆院定数削減「1割」で自維合意のデタラメ…支持率“独り負け”で焦る維新は政局ごっこに躍起

  1. 6

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  2. 7

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  3. 8

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 9

    立花孝志容疑者を追送検した兵庫県警の本気度 被害者ドンマッツ氏が振り返る「私人逮捕」の一部始終

  5. 10

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較