「タイガー理髪店心中」小暮夕紀子著

公開日: 更新日:

 主人公は、83歳になった今も理髪店を続けている寅雄。昭和スタイルの髪形にこだわっているせいか客足もめっきり減ったが、妻・寧子と共に店を毎日きれいに整え、客を待つ生活に不満を持つこともなかった。しかし最近、寧子は好きだった花の名前を思い出せず何度も聞き直したり、聞こえるはずもない子どもの泣き声がすると言ったりで、寅雄は不安を覚え始める。そんなことが続いていたある夜、水切りカゴに伏せられていた茶碗がカチャリと音を立てたのが合図だったかのように、寧子の豹変(ひょうへん)が始まった……。

 本作は、第4回林芙美子文学賞受賞作品。穏やかな日々の中で密かに進行する異変に狼狽(ろうばい)する老夫婦が、これまでの生活の中で蓋をしてきた過去の出来事や、自分の中にあった思いがけない感情に直面する様子を描く。お互いの老いを自覚しつつ、いつか来る死を思う老老介護の日々とはどんなものなのか。孤独感と不安感を映し出すかのような寅雄の目が捉えた光景のひとつひとつの描写が秀逸だ。

 幼少時に亡くした母の記憶を反すうする老女の物語「残暑のゆくえ」も収録されている。

(朝日新聞出版 1600円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    本命は今田美桜、小芝風花、芳根京子でも「ウラ本命」「大穴」は…“清純派女優”戦線の意外な未来予想図

  1. 6

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  2. 7

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  3. 8

    石破首相続投の“切り札”か…自民森山幹事長の後任に「小泉進次郎」説が急浮上

  4. 9

    今田美桜「あんぱん」44歳遅咲き俳優の“執事系秘書”にキュン続出! “にゃーにゃーイケオジ”退場にはロスの声も…

  5. 10

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃