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「香港危機の深層」倉田徹、倉田明子編

 中国の強権に真っ向から立ち向かう香港の市民たち。並ならぬその決意の深層を明かす。


 1989年に天安門事件、99年は法輪功事件、2009年に新疆ウイグル自治区の騒乱、そして昨19年に香港危機。西暦の下1ケタに「9」がつく年は中国にとって厄年なのだ。

 しかし香港研究の専門家夫妻である著者にとっても19年の香港危機は予想外だったという。民主化を求める政治活動などは当局の強い圧力で排除されたものとみられていたからだ。14年の雨傘運動のときも当事者たちが徹底的に弾圧され、現地には無力感が漂っていた。そこに起こった香港危機。従来とは違って、香港島だけでなく九龍半島ばかりか郊外の新界にも広がった。

 また天安門事件や雨傘運動とは違って中心になる指導者がいない。その一方、中国政府は今回の危機を「香港独立」の動きと批判しているが、当の香港サイドに独立志向は薄いようだという。

 若者が主体の運動ともいわれるが、実際のところ運動を支えている人々はどんな属性なのか。いや、そもそも「金儲けにしか興味がない」と自称する香港人が、なぜここまで激しく政治化するのか。

 これらの問題に正面から答えるのが本書。香港危機についておそらく最も目配りのよくきいた、一般にも役立つ専門書だろう。

(東京外国語大学出版会 1600円+税)

「漫画香港デモ 激動!200日」秋田浩史原作 TOA漫画

 香港在住の日本人青年が原作とコラムを担当。本人も香港デモの最初期からほとんどに参加してきたという。

 その当事者目線で得た情報をマンガでわかりやすく伝える。

 原作者自身とおぼしい日本人留学生が初めて香港に来て、スイーツや飲茶を味わうところから始まるストーリー仕立て。現地の友達とのメールのやりとりなど適度な息抜きをはさむほか、以前は強権政治に抗議していたジャッキー・チェンが近年は中国共産党に近い立場で香港人を落胆させていることなどの話題も豊富。

 若者の当事者目線をうまく表すマンガの可能性も改めて感じさせる出来だ。

(扶桑社 1200円+税)

「国家に抗するデモクラシー」ミゲル・アバンスール著 松葉類、山下雄大訳

 国家の強権に対する民衆の抵抗という点で、香港危機とフランスの「黄色いベスト運動」はつながるのではないか。そんなことを直感させるのがフランスの政治哲学者による本書。

 マルクスは「ヘーゲル国法論批判」で「真のデモクラシーの到来は政治的国家の消滅を伴う」とした。

 つまり国家とデモクラシーは両立しない。「デモクラシーは国家が消滅する過程において姿を現す」、いやむしろ「国家に抗する闘いにおいて構成される」のではないか、と著者はいう。したがってデモクラシーの本義は「民主的国家」という決まり文句とは対立するというのである。

 香港危機を直接あつかったものではないが、その根底にある問いかけを自覚するのに適した書であることは確かだろう。

(法政大学出版局 3400円+税)

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