「慶喜と隆盛」福井孝典著

公開日: 更新日:

 安政4年、西郷吉之助(隆盛)は13代将軍家定に年賀の挨拶をするために各地から訪れた大名や役人たちの中に現れた越前福井藩士・橋本左内に、ある会合に来るよう声をかけた。集まったのは、肥後の横井小楠、水戸の平岡円四郎、そして徳川慶喜。長い鎖国時代を揺るがす国際情勢のなか、次期征夷大将軍にぜひ優秀な慶喜を担ぎたいという思いのもとに集まった一橋派の面々だ。

 当の慶喜はそれを望んでいないものの、西郷は慶喜こそ将軍職に就くべきだと主張する。しかしその後、南紀派の井伊直弼が大老となり、朝廷を無視して日米修好通商条約に調印。さらに将軍家定が次期将軍を慶福(家茂)にすると発表してしまう。西郷の主君・島津斉彬が上洛を画策するが突然急死し、西郷は流刑、左内と吉田松陰が処刑、慶喜は登城停止の憂き目に遭う。多くの処分者を出した安政の大獄によって、西郷の願いはついえたかに思えたのだが……。

 安政の大獄から明治へと激変していく武士の時代の終焉を描いた歴史小説。フランスやイギリスの動きなども加え、薩長史観とは一線を画す多角的な視点が興味深い。

(作品社 1400円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

  2. 2
    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

  3. 3
    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

  4. 4
    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

  5. 5
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

  1. 6
    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

  2. 7
    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 8
    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

  4. 9
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 10
    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異