「かぐわしき 植物たちの秘密」田中修、丹治邦和著

公開日: 更新日:

 3度目の緊急事態宣言が出ている現在、道行く人のほぼ100%がマスクをつけている。新緑のこの季節、マスクのせいで若葉の香りを嗅ぐことができないのはなんとも残念。動くことのできない植物は、香りを使って虫たちを誘い込んで交配を促し、カビや病原菌から自らのからだを守り、さらには仲間たちとのコミュニケーションも図っているという。

 本書は、そんな植物たちの香りに潜むさまざまな秘密を解き明かしている。

 本書の特徴は、医学的な研究や疫学的な調査など科学的に裏付けられた結果をもとに、植物おのおのの効用を明らかにしていること。ラットの実験で、グレープフルーツの香りを嗅がせたグループとそうではないグループとでは、嗅いだグループの方が10%体重が減り、ダイエットの効果が証明された。また中年女性が、バナナ、ブロッコリー、ラベンダーなどいくつかの香りを身につけて男性の前に現れ、何歳に見えるかと聞いたところ、バナナなどは影響がなかったが、グレープフルーツでは約6歳若く見られたという。

 そのほか、記憶力を高めるローズマリー、強心剤としての効能があるクスノキ、端午の節句に飾られるショウブには心疾患の他、抗がん作用も注目されているそうだ。

 さて気になるのは、現在蔓延(まんえん)している新型コロナウイルスに効果のある香りはあるのか、ということだ。つまようじに使われるクロモジから抽出したクロモジエキスにはインフルエンザウイルスを不活性化し増殖を抑える作用が報告されている。またユーカリの香りを含む成分をウイルスに感染した細胞に与えると90%以上の減少をもたらした。ヒノキの香りの成分ヒノキチオールはすでに結核菌に効能があることは知られていたが、2005年、日本の会社がヒノキチオールがコロナウイルスの感染・増殖を抑えたと報告した。しかし、新型コロナウイルスでの治験は行われていないという。 

 ワクチン対策では大きく出遅れている日本、身近な植物の効能の研究を進めて活路を見いだしてもらいたい。 <狸>

(山と溪谷社 1430円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本は強い国か…「障害者年金」を半分に減額とは

  2. 2

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  3. 3

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  4. 4

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  5. 5

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  1. 6

    侍Jで加速する「チーム大谷」…国内組で浮上する“後方支援”要員の投打ベテラン

  2. 7

    石破前首相も参戦で「おこめ券」批判拡大…届くのは春以降、米価下落ならありがたみゼロ

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    高市政権の物価高対策「自治体が自由に使える=丸投げ」に大ブーイング…ネットでも「おこめ券はいらない!」