「アーミッシュの老いと終焉」堤純子著

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 1985年に公開されたハリソン・フォード主演の映画「刑事ジョン・ブック/目撃者」は、殺人事件を目撃した母子を主人公の刑事が犯人たちの手から守るというサスペンスドラマだ。母子はアーミッシュというプロテスタントの教派に属しており、映画にはそのアーミッシュたちの生活が描かれている。あの映画によってアーミッシュのことを初めて知った日本人も多いのではないか。

 著者はアメリカで暮らしていたとき、アーミッシュの人々とその生活に心ひかれたことをきっかけに調べ始め、これまでアーミッシュに関する3冊の本を刊行。4冊目になる本書では、自らの老いと対峙し、ありのままの自分を受け入れているように見える高齢者のアーミッシュたちの死生観に焦点を当てている。

 アーミッシュとは、16世紀に生まれた幼児洗礼を否定した再洗礼派のメノナイトから分かれた一派。基本的に電気を使わず、男性はつば広の帽子をかぶり白いシャツに黒っぽいズボン、女性は濃い紫や茶のワンピースに白いエプロンをつけ、髪を白いレースのキャップで包むという19世紀そのままの服装で当時の生活を今なお実践している。

 アルコール、たばこをたしなまず、兵役を拒否し、原則的に選挙の投票も行わない。それゆえ「変わり者の集団」「社会の化石」などと揶揄されることも多い。しかし、1家庭の子供の数は平均7人で、世界的に出生率が低下している中、右肩上がりに人口が増加している。また親族が同じ地域に暮らしているアーミッシュは家族・集団の絆が極めて強い。農業を主とするアーミッシュは現役を退くと子供たちに農地を譲り、孫たちの面倒を見ながら落ち着いた余生を過ごす。子供がいなくとも、地域の人間が皆で面倒を見る。そうした高齢者の生き方は、高齢化が進む日本の一つのモデルとなるだろう。

 無論、全てのアーミッシュが聖人君子であるわけではなく、狭い共同体特有な問題もある。それでも、そこにはグローバリズムに汚染されていない緩やかで着実な暮らしがあることは確かだ。 <狸>

(未知谷 2970円)

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