「貧困パンデミック」稲葉剛著

公開日: 更新日:

 昨年から続くコロナ禍は日本の貧困問題を可視化させ、「公助」が機能しない国であることを明らかにした。本書では、住居支援を中心に困窮者支援に長年取り組んできた著者が、コロナ禍で起きてきた貧困や格差の現実をつづっている。

 2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、政府や専門家は不要不急の外出を控え「自宅」で過ごすよう繰り返し呼びかけるようになった。しかし、ここからすでに格差が生まれ始めていた。日本社会では長年、住まいの確保は自己責任と考えられてきた。適切な住まいを確保することが国民福祉の向上につながるという「居住福祉」の観点が弱く、しかしコロナ以前までは住宅をめぐる格差は見て見ぬふりをされてきたのだ。

 しかし、コロナ禍では住環境が家庭内感染リスクを高めることが浮き彫りにされてしまった。厚生労働省は家庭内に感染が疑われる人がいる場合の注意事項として、部屋を分けることなど8つのポイントを公表している。しかし、狭い民間賃貸住宅で暮らす場合、部屋を分けること自体不可能だ。

 さらに、住環境は子供の学力格差を生む事態にもなった。昨年2月27日、当時の安倍首相が突然全国の学校を臨時休校にするという要請を行って以降、居室の数や通信環境の有無が、学力格差を拡大させる懸念要因となってしまった。これらの状況は、丸1年以上経っている現在も何ら解決されていない。

 本書では、都内の空き家などを活用した個室シェルターの提供など、著者が行ってきた活動についても紹介しながら、住宅支援事業こそ共助ではなく公助で行われるべきだと説いている。新しい政権では、公助が期待できるだろうか。

(明石書店 1980円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    カーリング女子フォルティウス快進撃の裏にロコ・ソラーレからの恩恵 ミラノ五輪世界最終予選5連勝

  2. 2

    南原清隆「ヒルナンデス」終了報道で心配される“失業危機”…内村光良との不仲説の真相は?

  3. 3

    契約最終年の阿部巨人に大重圧…至上命令のV奪回は「ミスターのために」、松井秀喜監督誕生が既成事実化

  4. 4

    「対外試合禁止期間」に見直しの声があっても、私は気に入っているんです

  5. 5

    高市政権「調整役」不在でお手上げ状態…国会会期末迫るも法案審議グダグダの異例展開

  1. 6

    円満か?反旗か? 巨人オコエ電撃退団の舞台裏

  2. 7

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  3. 8

    箱根駅伝3連覇へ私が「手応え十分」と言える理由…青学大駅伝部の走りに期待して下さい!

  4. 9

    「日中戦争」5割弱が賛成 共同通信世論調査に心底、仰天…タガが外れた国の命運

  5. 10

    近藤真彦「合宿所」の思い出&武勇伝披露がブーメラン! 性加害の巣窟だったのに…「いつか話す」もスルー