「差別はたいてい悪意のない人がする」キム・ジヘ著 尹怡景訳

公開日: 更新日:

 SDGsが目指す持続可能な社会では、暴力や差別のない平和な世界をつくることも重要な課題とし、「人や国の不平等をなくそう」という目標が掲げられている。しかし、これは非常に難しいことだ。

 自分は差別などしたことがないという人もいるかもしれない。しかし、世の中は差別にあふれている。そして、目に見えない、気づかれない非平等も多いのが現実だ。韓国で16万部超のベストセラーとなった本書では、“悪意なき差別”はいかに生まれるのか、不平等はどのようにして不可視化されていくのかを考察。真の多様性や平等とは何かを考えるきっかけを与えてくれる。

 人間には権力関係があり、特権を有することもある。これを一部の金持ちやエリート層の話だと捉えるのは間違いだ。例えば、市バスに乗って特権を享受していると捉える人はほとんどいないだろう。しかし、車椅子に乗った人が乗り場に並んでいたらどうだろう。自分には何の不便もない構造物や制度が、誰かにとっては障壁になると気づいた瞬間、私たちは自分が享受する特権を思い知る。普通に結婚できる人もそれを特権だとは思わないが、結婚ができない同性カップルの存在を知れば、自分の特権に気づくことができるだろう。

 しかし、残念ながらこのような発見の機会は頻繁には訪れず、人は不平等に無頓着になり、悪意なき差別が広がってしまう。「夜道をひとりで歩くことを怖がる必要はない」「昇進に失敗してもその理由は性別のせいではない」「組織で地位が高い人はほぼ同性」。これは男性特権の例だが、多くの男性は気づけないことだと本書。

 差別や不平等は、実はありふれたところに潜んでいることを教えられる。

(大月書店 1760円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  2. 2

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 3

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  4. 4

    2025年ドラマベスト3 「人生の時間」の使い方を問いかけるこの3作

  5. 5

    2025年は邦画の当たり年 主演クラスの俳優が「脇役」に回ることが映画界に活気を与えている

  1. 6

    真木よう子「第2子出産」祝福ムードに水を差す…中島裕翔「熱愛報道」の微妙すぎるタイミング

  2. 7

    M-1新王者「たくろう」がネタにした出身大学が注目度爆上がりのワケ…寛容でユーモラスな学長に著名な卒業生ズラリ

  3. 8

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  4. 9

    高市政権の積極財政は「無責任な放漫財政」過去最大122兆円予算案も長期金利上昇で国債利払い爆増

  5. 10

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手