「海がやってくる」エリザベス・ラッシュ著 佐々木夏子訳

公開日: 更新日:

 長靴の形をした土地というとイタリアを思い浮かべるが、実はアメリカのルイジアナ州も長靴形。靴底にあたる部分がメキシコ湾に面し、かつては広大な湿地帯だった。ところが現在、その靴底はボロボロに破れて擦り切れたようになり、50年後にはすっかりなくなる可能性が高い。なぜならこの地域は、海によって急速に浸食されているからだ。

 ルイジアナ州の海岸線はミシシッピ川によってつくられてきたが、ダム開発によって河口の堆積物は減少し、石油掘削が地盤沈下を引き起こし、そして気候変動が海面を上昇させた。これらの複合的な要因により、湿地帯は永久に消滅し始めている。米国地質調査所によると、ルイジアナ州では1932年から2000年までの間に、およそ4920平方キロが失われたという。これは東京都ふたつ分よりも多い面積だ。

 海岸線近くでは、樹皮の剥けてしまったサイプレスやオークの木が傾きながら立ち並んでいる様子が見られる。あるいは、すっかり倒れこんでいる木も少なくない。早逝の原因は、大気中ではなく根が張った地中深くにある。そこにあるはずのなかった海水が入り込み、植物を枯らし始めているのだ。

 本書は「ニューヨーク・タイムズ」紙などで絶賛され、2018年のピュリツァー賞の最終候補作ともなったルポルタージュ。ルイジアナ州の例以外にも、フロリダ州の洪水被害やニューヨーク州を襲った巨大ハリケーンなど、危機的状況にある地域の様子が、かつての人々の暮らしや美しい風景の記憶とともにつづられている。

(河出書房新社 2915円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  2. 2

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  3. 3

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  4. 4

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  5. 5

    (5)「名古屋-品川」開通は2040年代半ば…「大阪延伸」は今世紀絶望

  1. 6

    「好感度ギャップ」がアダとなった永野芽郁、国分太一、チョコプラ松尾…“いい人”ほど何かを起こした時は激しく燃え上がる

  2. 7

    衆院定数削減の効果はせいぜい50億円…「そんなことより」自民党の内部留保210億円の衝撃!

  3. 8

    『サン!シャイン』終了は佐々木恭子アナにも責任が…フジ騒動で株を上げた大ベテランが“不評”のワケ

  4. 9

    ウエルシアとツルハが経営統合…親会社イオンの狙いは“グローバルドラッグチェーン”の実現か?

  5. 10

    今井達也の希望をクリアするメジャー5球団の名前は…大谷ドジャースは真っ先に“対象外"