「強くてうまい!ローカル飲食チェーン」辰井裕紀氏

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 自分が育った地域でよく利用していた飲食店を思い出し、無性に懐かしくなることがないだろうか。おふくろの味ならぬ、地元のソウルフード。

「千葉県柏市で学生時代を送った私は、チェーン展開している中華料理屋『ドラゴン珍来』が外食のスタンダードのひとつだったと言ってもいいほどよく行きました。噛み応えのある手打ち風ラーメンと、でっかい餃子が魅力でしたね。あの店が実はローカルチェーンで、東京など他の地域にはないと知ったとき、“あの店は僕らだけの宝物だったんだ”と思ったんです」

 本書執筆の根っこにあった思いをこう話す著者は、テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」の元リサーチャー。その土地だけの行事や習慣などを調べまくっていたところ、「もしその町に自分が住んでいたら、ここで何百回も食べたかも」と想像が膨らむ店を全国各地に見つける。それらはおのおの、地元の宝物に違いないと。そこで、「ローカルで繁盛している」「すごいビジネスの工夫がある」という2つの条件を満たす、精鋭のローカルチェーン7つを選んで取材に行き、紹介したのが本書だ。

■「秘密のケンミンSHOW」の元リサーチャー厳選の7店

「三重県四日市市には、46年前から『おにぎりの桃太郎』という店があって、大人気です。創業者がハワイでマクドナルドに出合い、『日本のハンバーガーはおにぎりや』と思ったのが誕生のきっかけで、今16店舗。2代目社長が取材に応じてくれ、1番人気の炊き込みご飯を握った『味』と言う名のおにぎりは、祖母による地元独特の味付けが受け継がれていると聞きました。大ぶりのシイタケや鶏肉が入っていて、おいしかった。お米も地元産を選び、火力の強いプロパンガスを使うなど、さまざまにこだわり、保存料なし、消費期限当日だけ。炊きたてをキープしたような食感です。コンビニとは、そもそも客層が違うそうです」

「おにぎりの桃太郎」の本社屋上には特大のからくり形式の「桃太郎人形」がそびえ、一定の時刻に動く。その時刻が、建築現場で働く人たちに区切りの時刻を知らせるタイミングというのも好感度が高い。

 味と光景が相まって、地元の宝化しているケースに、埼玉県の「ぎょうざの満洲」も。1964年創業。全店が直営で、約100店舗。近年、都内や大阪にも少々出店したものの、埼玉県内の駅前に多くの店があり、まるで地域の守り神のよう。「3割うまい!!」と謎のフレーズを呟く女の子のキャラクターが出迎える。

「その謎のキャラクターこそ、創業者の娘である現社長なんです。看板メニューの餃子を大切にしながら、生活者視点に根ざした工夫がさすが。『毎日食べられる中華』を目指し、健康に配慮。玄米50%のチャーハンや季節限定メニューをヒットさせています。テーブルのタッチパネルに『餃子のおいしい調理法』が表示され、スマホで撮影もできるためか、レジのときに大袋の餃子を買うお客さんも多く、売り上げの4割をレジ横冷蔵庫からのテークアウトが占めているんです」

 他にも、本書には北海道・帯広の「カレーショップインデアン」、盛岡の「福田パン」、茨城の「ばんどう太郎」、大阪の「551HORAI」(豚まん)、熊本の「おべんとうのヒライ」が紹介されている。いずれも、全国チェーン顔負けの繁盛ぶりを見せている。その快挙は、全国に出ない価値によって立ち、ローカルチェーンとしての特性を武器としているからだ。

 終章には、「看板商品を押し出す」「オシャレすぎない」などローカルチェーン共通の極意も解説され、読み応えたっぷり。

「ローカル飲食チェーンは地元を支える大きな柱であり、観光資源にだってなります。一風変わった旅行ガイドとしても読んでください」

(PHP研究所 1210円)

▽たつい・ゆうき ライター。番組リサーチャー。元放送作家。1981年、千葉県生まれ。過去に「秘密のケンミンSHOW」(日本テレビ系)のリサーチを7年間務め、現在は「卓球ジャパン!」(BSテレ東)を担当する。「メシ通」「文春オンライン」などWEB媒体を中心に外食やローカル、卓球、食べ物系のネタを執筆。「デイリーポータルZ新人賞2017」で優秀賞受賞。

【連載】著者インタビュー

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