「アウシュヴィッツを描いた少年」トーマス・ジーヴ著 品川亮訳

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 トーマス・ジーヴは、ナチス政権下のユダヤ人政策に翻弄され、13歳で強制収容所に入れられた。本書は収容所前の生活から、トーマスが経験した3つの収容所での出来事と、そこからの解放に至るまでを記録したもの。1958年刊行の本と87年刊行に改訂・増補したものの全訳だ。

 第1部では、ヒトラー政権以降のドイツの変化が描かれる。差別的な法律や教育関連の法律が制定され、移住可能なユダヤ人がドイツから出ていった時期を経て、政権はユダヤ人に露骨に刃を向け始める。配給制度の開始、国境の閉鎖、娯楽の禁止等々、自由と人権が失われる様子が、今の時代と似ていることに気づくと背筋が凍る。

 加えて、収容所での生活を描いたスケッチも収録。収容所に集められたユダヤ人が「歩けるか歩けないか」で命の選別が行われたこと、貧弱な食事内容、高圧電流の流れる鉄条網、懲罰として利用されたスポーツ、流行した病など、少年の目から見た収容所が描かれており、過酷な状況を把握して何とか生き抜こうとした著者の意志が伝わってくる。

(ハーパーコリンズ・ジャパン 4290円)

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