「サンセット・サンライズ」楡周平著

公開日: 更新日:

 大手電機メーカー・シンバルに勤める西尾晋作は、大の釣り好き。

 あるとき、釣り仲間から「宮城の宇田濱でヒラメを30枚釣った」との話を聞かされ、晋作の心が動いた。折しもコロナ禍でテレワークが推奨されたばかり。晋作は海に近い田舎に移住しようとネット検索すると、まさに「宇田濱」に家具家電付きの物件を発見する。かくして晋作は身ひとつで宇田濱にお試し移住を始めた。

 漁は豊かで食べきれないほどの魚が釣れる。山の幸もうまい。自然に囲まれ夢のような生活だが、地域住民の好奇の目には戸惑いもあった。その遠因は、実は晋作が借りた家の大家で役場に勤める関野百香。美人で独身39歳とあっては当然だが、晋作は知る由もない。

 そんな中、晋作は百香が地域の空き家問題に頭を悩ませているのを知り、アイデアがひらめく。地方移住に興味を持つ社長・大津にも後押しされ、晋作は百香と共に空き家プロジェクトに取り組み出すが……。

 岩手県出身の著者による「お試し移住」小説。単なる地方移住物語ではなく、住んでみて初めてわかる問題や地域の特性などを絡めながら、地方再生のビジネスモデルをリアルに描き出す。震災被災者の百香と晋作の関係も読みどころだ。 (講談社 1980円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

  2. 2
    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

  3. 3
    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

  4. 4
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 5
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  1. 6
    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

  2. 7
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

  3. 8
    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

  4. 9
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  5. 10
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗