ホント?ウソ?最新陰謀論本

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「陰謀論入門」ジョゼフ・E・ユージンスキ著 北村京子訳

 昨年1月6日、次期大統領を確認する手続き中の米議会を襲撃した暴徒の集団。この衝撃的な事件こそトランプが仕掛けた陰謀論に唆された支持者によるものだった。陰謀論の正体に迫る!



 米マイアミ大学で政治学を講じる著者は、かねて陰謀論を政治学的に分析対象としてきた。それがトランプ政権下での陰謀論の大流行でこれまで以上に知られる存在になった。

 著者によると陰謀論には2つのタイプがある。ひとつは「なんらかの勢力が、権力を握るために一般の人々を欺く」。もうひとつは「権力組織が、腐敗やその他何らかの理由で民衆を欺く」。

 前者の例はケネディ暗殺を仕掛けた闇の集団があった、という陰謀論。後者の例は、アポロ11号の月面着陸が本物の月世界の実態を隠すため宇宙人と一部のエリートが結託して仕組んだウソのストーリーというものがそれに当たるだろう。

 こういう話は昔は一笑に付されていたものだが、いまでは政治の場で常態化している。移民に寛容な政府の政策を、低賃金労働者を歓迎する大企業が主導した「白人の置き換え」の陰謀とする議論などはその典型だ。

(作品社 2640円)

「仕組まれたコロナ危機」ミシェル・チョスドフスキー著 岩間龍男訳

 世界を転覆・改変する陰謀が進められている、と強く信じて周囲に喧伝するのが陰謀論者だとすると、本書の著者はまさにそのひとり。カナダのオタワ大学名誉教授で、ネットでは、かねて陰謀論者の代表的存在として知られる。グーグル、フェイスブックなどグローバル化の進展とともに大躍進したネット企業に対し、長年危機感を表してきた。

 著者によると「新型コロナウイルス感染症は公衆衛生上の問題ではあるが、危険なウイルスではない」ことを多くの公衆衛生の専門機関が認めている。しかし大規模なロックダウンによってグローバル化した世界の新たな支配に進もうとする策謀が真相を隠し、コロナ禍を「パワーエリートの洗練された道具」として利用したのだ。

 原著は著者のホームページに掲載された電子書籍。大衆運動を骨抜きにする金融エリート勢力が仕組んだ地球規模のヤラセがコロナ禍というわけだ。

(共栄書房 2200円)

「陰謀論 THE3名様Q」石原まこちん著

 陰謀論は、肯定派はもちろん否定派もユーモアがなくてはいけない。米議会襲撃の陰謀信者らが、あれだけケッタイないでたちのくせに誰も笑わないのは問題だろう。トランプだって元は深夜テレビで笑いをさそう自称セレブだったのだ。

 本書はそこに絶妙の笑いをもたらしてくれる解毒剤。最初はマンガ、さらに実写ドラマからアニメ化までされた人気コンテンツ「THE3名様」。フリーターの若者3人がファミレスでダベるだけというユルさで人気のマンガ家が、今回は陰謀論に挑戦した。

 主人公はCIAの下級エージェント3人。昼休みにいつもの喫煙所にたまってダベるのが日課。

「ハーア疲れた疲れた」「今日どんな工作してるの?」「工作じゃねーんだワ今日」「何? じゃ」「拷問よ拷問」「あー」「某国のスパイからトップシークレットを聴き出すため朝からつきっきりよ」「へー」「またそいつが気合い入ってっから吐かねー吐かねー」

 と、こんな感じのユルい笑いが全部で34編。

(秋田書店 792円)

「フェイクニュースを科学する」笹原和俊著

 フェイクニュース(ニセ情報)は単なる誤報とは違う。誤報は「ミスインフォメーション」、つまり故意の過ちではないミスだ。フェイクニュースはデマ(でたらめ)であり、それを一見もっともらしく仕立てたのが陰謀論というわけだ。

 本書は近年の新分野として注目される計算社会科学の専門家による「拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ」(副題)の解説本。現代のネット環境は「見たいものしか見えな」くなっていると著者は言う。ネット通販のオススメ機能と同じ仕組みが働いて、自分の信念に不都合な情報が届きにくくなるのだ。米国の政治ネットではリベラル派のブログは同じリベラル系の記事を引用する傾向が歴然とあるという。つまり仲間内での認知のゆがみが、グルグルと循環するように誤った認識を強めていくのだ。トランプ支持者しかり、「コロナワクチンで自閉症が増える」などの誤情報しかり。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツがワクチンにマイクロチップを仕込んで世間にばらまいているという陰謀論など、映画「マトリックス」ばりなのだ。

(化学同人 990円)

「陰謀論とニセ科学」左巻健男著

 陰謀論の流行は単独で起こったわけではない。長年にわたるオカルト趣味の拡大、都市伝説、そしてニセ科学の蔓延が現在の土台をつくってきたともいえる。本書は理科教育の専門家である著者が“本当っぽいウソ”の広がりを一刀両断にした。

 たとえば「××のハンバーガーにはミミズが入っている」という昔からある都市伝説。これはビーフとミミズの原材料費を比較してみれば一目瞭然。前者は1キロで数千円だが、ミミズ1キロは7000~8000円かかるのだ。著者の友人が実際にミミズバーガーを作って検証もしたそうだ。

 だが、その一方で陰謀と陰謀論が見分けにくいのも事実。ベトナム戦争開戦の口実となったトンキン湾事件は、米軍のでっちあげだったことが新聞に暴露された。イラク戦争のときに報じられたイラク兵の赤ちゃん殺しの非道な行為は、米国の広告代理店によるシナリオだった。さまざまな実例を紹介しながら、科学の衣をまとったフェイクの世界を落ち着いて紹介している。

(ワニブックス 1045円)

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