「完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件」小野一光著

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 2002年3月7日、福岡県北九州市で、中年の男女、松永太と内妻・緒方純子が逮捕された。容疑は17歳の少女に対する監禁・傷害。しかし、事件はとんでもない様相を見せ始め、やがて凄惨な大量殺人事件が明るみに出た。

 最初の被害者は監禁されていた少女の父親。その後、共犯者である純子の親族6人が相次いで殺された。被害者は純子の両親、妹夫婦と2人の子供。死因は電気ショックや電気コードによる窒息死だった。

 著者は、事件発覚当初から20年にわたってこの事件の取材を続けた。膨大な証言や裁判記録から、事件の底知れぬ闇に迫った。570ページに及ぶ詳細なドキュメントの概要をごくシンプルにまとめるなら、得体の知れない悪魔のような詐欺師・松永と、彼に洗脳された純子とその家族の類を見ない悲劇、ということになるだろうか。

 松永はルックスも頭も良く、口が達者。目立ちたがり屋で支配欲が強く、狡猾。女に近づいては金を巻き上げた。旧家の娘で高校の同級生だった純子も、そんな松永に取り込まれていく。関係をもってしばらくすると、松永は暴力的な本性をあらわにした。相手を支配する常套手段は電気ショック。電気コードの電線に金属クリップを装着し、相手の体を挟んで通電するという方法だった。

 暴力さえ愛と錯覚したのか、松永に心身を支配された純子は、家族までも生け贄にしてしまう。松永は緒方家の土地家屋を担保に融資を受けさせ、各人に借金をさせた。詐取が限界を超え、一家に金づるの価値がなくなったとき、松永は一家殲滅を決める。しかし、自分は手を下さなかった。家族同士で殺し合いをさせ、遺体を解体・遺棄させた。

 裁判で、松永は死刑、純子は無期懲役を言い渡された。著者が福岡拘置所で松永に面会したとき、松永は冗舌に無実を訴えた。彼は屈託がなく、自信満々だったという。この男、やはり悪魔か。

(文藝春秋 2420円)

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