「進化が同性愛を用意した」坂口菊恵著

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「進化が同性愛を用意した」坂口菊恵著

 以前、子どもをつくらない同性カップルは「生産性がない」と評して顰蹙を買った自民党女性議員がいたが、そこには異性愛こそが正常であるという思い込みがあったのだろう。生物の性行動は、異性間で直接的に生殖のために行われるのが「自然の摂理」だという前提だ。

 ところが実際にはヒト以外の生物でも生殖に結びつかない同性間の性行動が広く見られるという。有名なのはボノボだが、そのほか、イルカ、ニホンザル、ゴリラ、ライオン、ゾウ、シカ、トンボ、カニ、イカ……その数は1500種にもなる。

 このように自然界には同性愛があふれている。ということは、多くの生物はもともとは両性愛であり、典型的な性行動を規定するものは生物学的な性ではなく、その社会におけるジェンダーロール(性役割)だということになる。本書は「ジェンダー」という概念を生物学の枠組みに取り込み、個体の発達と生物学的な素因や進化適応の関係を明らかにしつつジェンダーとセクシュアリティーをめぐる認識の仕方を再構築しようというもの。

 たとえば、エリマキシギという鳥は、典型的なオスは黒い羽で覆われているが、中には派手な白い襟巻きをつけたドラァグクイーンのようなオス、さらにはメスそっくりのオスもいる。ブチハイエナというハイエナの一種のメスはオスより立派な偽ペニスと偽陰嚢を持つ。魚類では雌雄同体も多く、身体や行動の表現としてオス型をとるかメス型をとるかの戦略は周囲の環境によって流動的だ。つまり、性をオス/メスとくっきり分けてしまうことは生物学的にも社会的にも不正確なのだ。

 同様に、生物界における同性愛的な性行動やコロニーの存在は、個体同士の協力行動を促すためのもので、性行動は生殖(遺伝子継続)のための適応だという従来の考えを覆すことになる。同性愛も生物多様性の重要な要因であるという新しい知見を与えてくれる。 <狸>

(創元社 1760円)

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