「木が泣いている」長濱和代著

公開日: 更新日:

「木が泣いている」長濱和代著

 日本の森林率(国土面積に占める森林面積の割合)は68.7%で、フィンランド、スウェーデンに次ぐ世界第3位。世界有数の森林国にもかかわらず、日本で利用される木材の国内産はわずか2割、そのうちスギが4割ほどを占めている。そのスギが伐採されるのは植樹からおよそ50年。そこまで育てるのにかかる経費は1本あたり約2万円。対して、50年生のスギ1本の価格は1500円強。つまり売ろうにも儲からないから、伐採せずに放置されてしまう。近年ではスギは花粉症の元凶として疎まれることも多い。かつては日本人の暮らしに必要とされていたのに、こんな状態に追いやられてしまったことに「スギが泣いている」ように見えると著者はいう。

 著者は、地球環境の問題を、世界の森林減少と保全の観点から解くべく、インドのヒマラヤ山麓などでフィールドワークを行っている。本書は、日本の森林の歴史をたどりながら、未来へ向けての森林の活用法をジュニア向けに書き下ろしたもの。

 現在の日本の森林は「木を利用しなくなったことによる危機」を迎えている。原因は、林業生産活動の低迷、必要な間伐が行われないことによる森の健全性の喪失、林業従事者の減少と高齢化、木の「高齢化」に伴う二酸化炭素吸収量の低下などで、これら要素が絡み合って悪循環に陥っている。

 ではどうすればいいのか。まずは森の整備と保全のためのフォレスター(森林従事者)の育成が必要だが、現在「林業男子」に注目が集まり、全国各地で「林業女子会」が開催されるなど若い芽が育っている。次に国産木材の利用の増大。「間伐材マーク」のついた商品の購入、公共建築物での国産木材の利用、国産木材の輸出促進などが挙げられる。

 現在、地球温暖化による気候変動が喫緊の問題になっているが、本書は地球規模での森林資源の保全の取り組みが必要だと教えてくれる。 <狸>

(岩波書店 1595円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「マラソン」と「大腸がん」に関連あり? ランナー100人への調査結果が全米で大きな波紋

  2. 2

    “マトリ捜査報道”米倉涼子の圧倒的「男運」のなさ…海外から戻らないダンサー彼氏や"前科既婚者"との過去

  3. 3

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  4. 4

    大阪・関西万博「最終日」現地ルポ…やっぱり異常な激混み、最後まで欠陥露呈、成功には程遠く

  5. 5

    米倉涼子“自宅ガサ入れ”報道の波紋と今後…直後にヨーロッパに渡航、帰国後はイベントを次々キャンセル

  1. 6

    アッと驚く自公「連立解消」…突っぱねた高市自民も離脱する斉藤公明も勝算なしの結末

  2. 7

    新型コロナワクチン接種後の健康被害の真実を探るドキュメンタリー映画「ヒポクラテスの盲点」を製作した大西隼監督に聞いた

  3. 8

    巨人の大補強路線にOB評論家から苦言噴出…昨オフ64億円費やすも不発、懲りずに中日・柳&マエケン狙い

  4. 9

    元体操選手の鶴見虹子さん 生徒200人を抱える体操教室を経営、“アイドル”も育成中

  5. 10

    地上波連ドラ3年ぶり竹内涼真に“吉沢亮の代役”の重圧…今もくすぶる5年前の恋愛スキャンダル