『インフレ時代の「積極」財政論』ウィリアム・ミッチェル、藤井聡著/ビジネス社

公開日: 更新日:

『インフレ時代の「積極」財政論』ウィリアム・ミッチェル、藤井聡著/ビジネス社

 本書は、日本で積極財政論を展開する第一人者で京都大学教授の藤井聡氏と、オーストラリア・ニューカッスル大学教授でMMT(現代貨幣理論)の創始者であるウィリアム・ミッチェル教授の対談を含む共作だ。

 経済政策に詳しい人は、この2人の名前を聞いただけで、その結論がどうなるか容易に想像できるはずだ。もちろん、積極財政による不況の克服と安定的経済成長への回帰だ。ただ、昨年、この2人の積極財政論に大きな逆風が吹き始めた。世界的な原材料価格の高騰と、日本ではそれに円安が加わって、食料品を中心に猛烈な物価上昇が襲ったのだ。積極財政は、需要を拡大する政策だから、単純に積極財政を続けると物価が高騰して、ますます国民生活が疲弊してしまう。

 著者2人の出した結論は、積極財政を継続しながら、消費税引き下げなど、物価を引き下げるための財政出動を重ねるべきだというものだ。積極財政オン積極財政だ。

 実は、私もそうするしかないなと漠然とは考えていた。しかし、さすがに超一流の経済学者だ。その結論をきちんと科学に基づいて導いている。

 そして本書のもう一つ素晴らしいところは、科学的厳密さを担保しながら、決して理論書のような読みにくい書籍にするのではなく、逆に一般の読者でも十分理解できるようにていねいで、分かりやすい表現を守り抜いていることだ。この本の表現が理解できないようだったら、どの経済書も理解できないだろうというレベルまで、読者にていねいに寄り添っているのだ。

 ただ、私が本書を一番読んで欲しいと考えているのは、一般国民よりも、ザイム真理教に籠絡され、誤った経済政策を繰り返している日本の国会議員たちだ。例えば、物価高騰から国民生活を救うための17兆円の経済対策にしても、物価引き下げの効果のない4兆円の減税と景気拡大にまったく効果を持たない半導体産業誘致や宇宙開発など、利権を膨らませるだけで税金をドブに捨てるようなことをしているからだ。

 政治家も、せめてこの分かりやすい本を読破できるくらいには、国語力を鍛えて欲しいと、心から願っている。

 ★★★(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    清原和博氏が巨人主催イベントに出演決定も…盟友・桑田真澄は球団と冷戦突入で「KK復活」は幻に

  2. 2

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  3. 3

    99年シーズン途中で極度の不振…典型的ゴマすりコーチとの闘争

  4. 4

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  5. 5

    日銀を脅し、税調を仕切り…タガが外れた経済対策21兆円は「ただのバラマキ」

  1. 6

    巨人今オフ大補強の本命はソフトB有原航平 オーナー「先発、外野手、クリーンアップ打てる外野手」発言の裏で虎視眈々

  2. 7

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  3. 8

    林芳正総務相「政治とカネ」問題で狭まる包囲網…地方議員複数が名前出しコメントの大ダメージ

  4. 9

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  5. 10

    角界が懸念する史上初の「大関ゼロ危機」…安青錦の昇進にはかえって追い風に?