「トイレからはじめる防災ハンドブック」加藤篤氏

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「トイレからはじめる防災ハンドブック」加藤篤氏

「地震が発生してから3時間以内に約39%の人がトイレに行くんですよ。災害発生直後は混乱していて、ほとんどの人が飲食をしていない。にもかかわらずトイレに行きたくなる。つまり地震が起きたときに守るべきものは命ですが、その次には食料や水より先にトイレが必要になるんです」

 そう語るのは、学校や山小屋、災害現場のトイレ状況の調査や改善に取り組み、元日に起きた能登半島地震でも、現地で避難所のトイレなどを調査してきた日本トイレ研究所代表理事の著者だ。前述のデータは2016年の熊本地震のときのものだが、1995年の阪神・淡路大震災では発生後3時間で、なんと66%もの人がトイレに行きたくなっていた。

「トイレは命と尊厳に関わること。私たちはトイレが汚かったり、屋外の寒いところにあったりしたら、トイレになるべく行かなくてすむように水分摂取を控えがちになります。その結果、口の中が乾燥しウイルスなどに感染しやすくなり、誤嚥性肺炎やエコノミークラス症候群を引き起こし、関連死を招くのです」

 災害時に、そうした健康被害に陥らないように、衛生的視点からトイレを考え、家庭や職場、地域で備える具体的な方法と基礎知識を解説しているのが本書である。

 阪神・淡路、東日本大震災では、上下水道の仮復旧まで1カ月以上かかり、給水も排水も機能しなくなった水洗トイレの便器やその周辺が大小便やゴミであふれ、床も見えなくなっている光景が見受けられた。今回の能登半島地震では、3月に入ってもまだ9割以上の世帯が断水している地域もあり、復旧が難航している。しかし、今回はトイレ事情に変化が見られた。屋外の仮設トイレだけでなく屋内にも携帯トイレや簡易トイレが設置されたことで、足腰の弱っている高齢者などは段差のある仮設トイレを利用せずにすむようになっている避難所もあった。

「トイレの重要性が認知されたことは大きな進歩ですね。携帯用トイレとは、水洗トイレが使用できないとき、便器に設置して使用する袋式のトイレで、ぜひ用意しておきたい防災備品のひとつ。袋の中に排泄し、吸収シートや凝固剤で大小便を吸収・凝固させます。先に便器に45リットルのポリ袋をかぶせてから、その上に携帯用トイレを取り付けると処分しやすい。地震の混乱が落ち着いたら、まず携帯用トイレを設置することです」

 携帯用トイレの常備数は「人数×1日あたりの排泄回数×避難日数」で計算する。平均的なトイレ回数を1日5回として、家族4人で避難生活が7日間とすれば140回分必要となる。

 また、災害時のトイレでは非常用照明としてランタンタイプが使いやすいことや、おしりを拭く際には汚れが病原菌を運ぶことを防ぐため、服の袖をまくることなども紹介している。

 さらに下水道管が埋設されている自宅前の道路やマンホールの状態を目視することで下水道の状況を調べ、汚水を流さないようにすることも大事だ。

「災害時に身近なもので工夫することは大事ですが、トイレは公衆衛生面からすると難しい。それに災害時、唯一、ひとりになれるところがトイレだからこそ、安心できる備えが大切なのです」

(学芸出版社 2200円/携帯用トイレ1個付きの限定販売は2500円)

▽加藤篤(かとう・あつし) 1972年生まれ。NPO法人日本トイレ研究所代表理事。小学校のトイレ空間改善や災害時のトイレ調査、防災トイレ計画の作成を実施。「災害時トイレ衛生管理講習会」を開催し、人材育成に取り組む。著書に「うんちはすごい」「もしもトイレがなかったら」など。

【連載】著者インタビュー

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