少子化ニッポンの移民論

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「ニューカマーの世代交代」樋口直人、稲葉奈々子編著

 少子化の流れが止まらない。出生率の劇的向上は望めないとなれば、やはり手段は移民か?

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「ニューカマーの世代交代」樋口直人、稲葉奈々子編著

 しばらく前、経済紙で移民労働者家庭の子どもたちの高校中退率がとびぬけて多いという報道があった。社会問題のような扱いだったが、果たして現実はどうか。本書は「移民2世」の子ども・若者世代の生活と教育について、社会学者や移民研究者らがそれぞれ論考を寄せている。

 アメリカなどでは移民家庭は親よりも子のほうが学歴が高くなるのが普通だが、日本では逆に2世のほうが低くなる傾向にあるという。

 また同じ2世でも韓・朝、中、フィリピン、ベトナム、ブラジル、ペルーで進学率や大卒比率が明らかに違う。特にフィリピンが低いのが目を引くが、本書の別の論文ではフィリピン移民2世で大学に進学した実際の例が、他の国からの移民2世と比べながら紹介されている。

 現状の大学入試や奨学金制度は、日本語や英語を母語としない定住外国人家庭への配慮がほとんどないのが普通。このへんがほかの先進国に比べて明らかに遅れている。OECD(経済協力開発機構)の国際比較でも移民と非移民家庭の子どもの就学率の差は日本がダントツに大きいのだ。

 なお、本書の執筆者7人のうち3人が移民2世。研究者と当事者の両方の視点が特徴だ。専門書ゆえの地道な報告を通して、新聞報道の裏にある現実が見えてくる。

(明石書店 3960円)

「移民の歴史」クリスティアーネ・ハルツィヒほか著 大井由紀訳

「移民の歴史」クリスティアーネ・ハルツィヒほか著 大井由紀訳

「移民の国」といえばアメリカだろう。そこには「アメリカン・ドリーム」などが尾ヒレについて明るいイメージばかりが流布される。しかし移民は「旧世界」から「新世界」へ一方的に動くだけの存在なのか。

 そう問いかける本書はドイツ生まれでアメリカの大学教授になった女性研究者らの共著。移民を「越境移動」という概念で捉え直し、そこにジェンダーの視点を加えた。すると有史以前の人類の大陸間移動が移民の始まりとなり、また写真花嫁や、現代なら先進国でのメイドや介護職の現実にまで視野が広がるのだ。

 EU設立によって欧州大陸域内での移民は自由になる一方、NAFTA(北米自由貿易協定)のもとで自由になったのは商品と資本の移動だけだ。西側先進国のなかではとびぬけて移民制限の厳しいといわれる日本。そのあり方を世界史の視野で見直すのによい本だ。

(筑摩書房 1430円)

「カレー移民の謎」室橋裕和著

「カレー移民の謎」室橋裕和著

 いつのまにか日本の街に増えたのがインド料理の店。特に庶民的なたたずまいのところは、実は経営者がネパール人であることが多い。こういうネパール人が経営するインド料理(インドカレー)店を「インネパ」というのだそうだ。

 本書は新大久保在住のアジア専門ジャーナリストが書いたルポ、その名も「日本を制覇する『インネパ』」(副題)だ。

 著者がネパール語新聞を発行する在日ネパール人に取材したところ、インネパ料理店は日本に4000~5000店あるという。ヒマラヤの麓の小国であるネパールでは出稼ぎが当たり前。しかもインドやパキスタンに比べて人当たりが柔らかで日本人と相性がいい。実はインネパ店のまかない料理にカレーはなく、素朴なネパール料理は店に出すものとは全然違うのだそうだ。というような面白バナシがいろいろ出てくる。

 1989年の入管法改正で移民労働者は不法滞在となり一掃されたが、なぜか同じころコックの就労ビザが取得しやすくなり、それが背景となってインネパ料理店が増えたのだそうだ。これなど現場百遍のルポライターならではの発見だろう。

(集英社 1320円)

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