著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

古書ソオダ水(早稲田)文芸、芸術・音楽が6割。4割が俳句、短歌、詩

公開日: 更新日:

 早稲田大学北門のすぐ左手のビルの2階。ドアを開け、懐かしき古本屋然としたたたずまいにシンパシーを覚える。面陳列少なめ。実用第一っぽい本棚にぎっしりと本が挿さっていた。

「2018年1月にオープンし、8年目を迎えました。10坪に5000冊。文芸、芸術・音楽が6割。4割が、俳句、短歌、詩ですね」

 と、店主の樋口塊さん(41)。田中冬二全集、富士正晴作品集から視線を感じながら、「相当な文学好きのにおいがする」と呟いたら、「いえいえ」。

 むしろ、“古物好き”。中古CDショップを経て、中野の漫画専門古書店「まんだらけ」で10年働くうちに、「好きな古物の比重が本に移ったんです」。

 とはいえ、店名は、京都の立命館大時代に出会った、小沼丹の小説「不思議なソオダ水」に由来するという。ふむふむ。

「詩集が多いのは、ご自身が詩人だから?」と聞くと、「いいえ」ときっぱり。「読む方です」。続いた話がふるっていた。

「生きていくことに意味が求められがちですけど、違うのでは? 詩は意味を重要視せず、言葉をただ楽しむことができる娯楽。言葉を起承転結などの構成や、『意味を伝える』という役割から解放してあげられる……」

「八百屋さんのような日常生活の一部の店になりたいんです」

 頷いたり、再質問したり。取材を超えた時間の楽しかったこと! そして「個人的な交流があった」という榎本櫻湖の遺稿詩集「Hanakoganei Counterpoint」を「ものすごい」と見せてくれる。

 さらに樋口さんは、田村隆一と北村太郎との関係の話を少々。あと、「詩を中心とした言語作品の多様なあり方を探求している」という、若い人たちのユニット「TOLTA」も教えてくれる。詩にさして興味のなかった私なのに、気がつけばそれらの詩集を手にしちゃっていた。

 私も楽しいが、樋口さんも楽しそう。

「店を始める前にイメージした、昔の古本屋の親父みたいになってるなあと、近頃自分で思います。暇だから、店で本も読めますし」と言った後、「来てくれる人にとって、わざわざ行くところじゃなくて、八百屋さんのような日常生活の一部の店になりたい」とも。

◆新宿区西早稲田1-6-3筑波ビル2A/℡03.6265.9835/都電荒川線早稲田駅から徒歩1分、地下鉄東西線早稲田駅から徒歩8分/11~20時、水曜休み

ウチの推し本

「集英社版世界文学全集31」晩夏シュティフター著、藤村宏訳

「シュティフターが19世紀に書きました。主人公が人生を回想する、ドラマチックな展開も何もないすごく退屈な小説ですが、ものすごく面白い。脇にこんな花があって、などとネイチャー・ライティングが素晴らしいんです。私の場合は、父がドイツ語の本の編集者で、子供のときからドイツ文学が身近だったからハマったのかな。ちくま文庫でも出ていますが、すでに絶版。好きな方、どうぞ」
(1979年刊 2500円)

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