「ドキュメント クマから逃げのびた人々」三才ブックス編集
「ドキュメント クマから逃げのびた人々」三才ブックス編集
クマに襲われたが命は助かった人たちが、自らの被害体験を語ったドキュメント。1992年から2023年までに起きた8つの被害事例を取り上げている。
渓流釣りに出かけ、背後から不意打ちされて頭から大流血(群馬県)。自宅裏の畑で、ヤブから現れたクマの一撃を受け、右目を失明(島根県)。地下鉄駅近くの住宅街に出没したクマに襲われ、肋骨6本骨折、全身の裂傷や打撲で全治3カ月の重傷(北海道札幌市)。上高地のキャンプ場で夜中にテントごと引きずられ、右膝負傷(長野県)。クマとの命がけの取っ組み合いの果てに血まみれで生還(秋田県)……。
体験者が語るクマとの遭遇現場は、実に生々しい。向かってくるクマの猛スピード、音もなく後ろから襲われる衝撃、耳元にかかる「シュッシュッシュッ」という息遣い。痛みを感じないほどのパニック。もうダメだと思った瞬間、クマの方から去っていくこともあるし、再び攻撃してくることもある。運良く逃げのびても後遺症やPTSDに苦しんでいる人も少なくない。
それでも、クマを恐れ、クマを恨むのではなく、複数の被害者がクマの身になって発言しているのが印象的だ。キャンプ場で被害に遭った女性は、「私の場合、クマに責任はないと思います」と語っている。クマが人間の食べ物の味を覚えたのは人間のせいなのだから。
地図にない沢を登っていてクマと死闘を繰り広げるハメになった男性はこう語る。
「山に入っていって『クマに襲われた』と騒ぐのは、筋が違うと思います。山中にはクマのテリトリーがあることを忘れてはならない」
本作はクマによる人身事故の被害者へのインタビューに加えて、3人の研究者の知見、先駆的にベアドッグを導入した軽井沢町のクマ対策を紹介するなど、人とクマがともに生きる方策を探っている。誰もがクマに遭遇する可能性があるいま、一人の人間として、地域全体として、何ができるのか、何をすべきなのか。多くのヒントに満ちたタイムリーな一冊。
(三才ブックス 1980円)


















