遠藤航〈前編〉弱点を最小限にとどめられるサッカーIQの高いスーパーな選手(Jリーグ湘南元監督・反町康治)
MF遠藤航(英プレミア1部リバプール/33歳)
北中米W杯のメンバー発表が5月15日に正式決定し、ケガ人の動向が注目されている。その筆頭が、2月11日に左足首を負傷して人工じん帯を入れる手術に行い、懸命のリハビリを続けている主将の遠藤だ。その彼が湘南U-18所属だった2010年にプロデビューさせた反町氏(現清水GM、JFA前技術委員長)が、教え子の復活に期待を寄せた。
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──遠藤は2008年に湘南U-18入りし、高3だった2010年9月の川崎戦でJリーグデビューした。
「私は2009年に湘南の監督に就任し、時々ユースの選手も見ていましたが、航を呼ぶことはありませんでした。湘南はこの年にJ1昇格を達成したものの、選手層が潤沢ではなかったので、2010年はチーム編成にかなり苦労した。特別指定で永木亮太(いわき)を取ったりしながら戦力アップに努める中、航も何度か練習に呼んで試しました。17歳の航は背筋がピンと立っていて、落ち着いてプレーできる若手だった。技術的にそんなに優れているわけでなく、足も特別速くはなかったので、最終ラインだと(川崎F所属のFW)ジュニーニョのような爆発力のある選手に抜かれる可能性が高かった。でも『ボランチなら計算できるのではないか』と思って、川崎戦で先発起用しました」
──その川崎戦は?
「前半で3失点してしまい、航も通用しなかったので下げました。特にスピード面で全くついていけなかったですね。最終的に1-6で大敗してしまい、本人もプロの厳しさを痛感したはず。それでも真面目で努力家でしかも非常に前向きです。そういうところは私も高く評価していました」
──この年はJ1で6試合に起用。名古屋の優勝が決まった11月1日では4バックのCBで先発させ、相手エースFWケネディを封じました。
「この試合は奮闘しましたが、4バックのCBには向いていないな、というのが正直な感想ですね。ただ、ボールを受けてワンタッチで前を向いたり、ハーフラインまで持ち出して組み立てたりすることは上手だった。浦和時代は3バックの右DFが主戦場、ハリルホジッチ監督率いる日本代表では4バックの右SB、(ドイツ1部)シュツットガルト時代はインサイドハーフと多彩な役割をこなしていましたけど、それだけの賢さや適応力も非凡だったと思います」
──遠藤は反町さんが湘南を離れた2012年、19歳で主将の大役を担いました。
「湘南U-18で指導していた曺貴裁監督(京都)が託したのでしょうが、常に堂々としているし、ブレることがない。当時から自分の意見もしっかり言えましたし、結婚も早くて責任感も強かった。若い頃から優れたパーソナリティーを備えていました。さらに言うと、航は人の話を本当によく聞き、適応力も素晴らしい。練習で『このミニゲームは1タッチ以下』といったルール設定を説明しても、その通りにできない選手が多い中、彼は完璧にこなします。それは日本代表の練習でもそうだった。私が今まで見た選手の中で『外からの情報をスムーズにインプットする力』、そして『自分なりに解釈してアウトプットする』の能力はナンバーワン。2022年カタールW杯でも森保一監督の指示通りにスペースを使ったり、敵の背後を取ったりしていて『ホントにスーパーな選手だ』と感心させられました」
──リバプール時代にユルゲン・クロップ監督(レッドブルサッカー部門責任者)に重用されたのも頷けます。
「クロップはドルトムントの監督時代に香川真司(C大阪)、リバプールでも南野(拓実=モナコ)と仕事をして、日本人の愚直なまでに努力するキャラクターを理解している。航のことも信頼して使ってくれましたね」
「フットボール・ブレインのよるところが大」
──そのリバプール行きにも象徴されますが、遠藤は20代後半から爆発的な進化を遂げました。
「湘南から浦和へ行ったのが23歳、シントトロイデン移籍が25歳、シュツットガルト移籍が27歳になる直前、リバプール移籍が30歳ですからね。複数のポジションを高いレベルでこなせたこともひとつのポイントですが、やっぱり彼のサッカーIQが抜群に高いのが大きかったと思います。今のサッカー界ではスピードがより重要視されるようになっていますが、前にも話した通り、航はそこまで速さがない選手。私が2008年北京五輪に連れていった吉田麻也(LAギャラクシー)や森重(真人=FC東京)にしてもそうですが、30代半ばを過ぎてもピッチに立ち続けていられるのは、やはりフットボール・ブレインのよるところが大。スピードがない分、反応を速くするとか、良いポジションを取るとか、そういったことができるからこそ、自分の弱点を最小限にとどめられるのです」
──遠藤選手がリバプールでプレーするようになると考えていましたか?
「いや、そこまで行くとは正直、思わなかったですね。でも、いろんな巡り合わせと本人の努力があって、今の航があると思います。2月に負った左足首のケガの早い回復を祈りたいところです」
【後編】につづく
(聞き手=元川悦子/サッカージャーナリスト、絹見誠司/日刊ゲンダイ)
▽えんどう・わたる 1993年2月9日生まれ、33歳。神奈川・横浜市出身。南戸塚中サッカー部からJ湘南ユース。2010年にJデビュー。2015年に浦和に移籍。18年にベルギー1部シントトロイデン、2019年にシュトゥットガルトに引き抜かれた。2023年に英プレミアの強豪リバプール入りした。2015年7月に日本代表初選出。2016年リオ五輪代表として3試合出場。2018年ロシア大会メンバー入りするも出場機会なし。2022年カタール大会では全4試合に出場して16強入りの原動になった。
▽そりまち・やすはる 1964年3月8日生まれ、62歳。埼玉・浦和市出身。静岡・清水東高で全国高校サッカー選手権優勝。慶応大卒業後に全日空に入社。全日空の社員選手から1994年にJ湘南とプロ契約を交わしてプレーした。97年に現役引退後は新潟で監督。2008年北京五輪監督を務めた後は湘南、松本で采配をふるった。2020年にJFA技術委員会の委員長に就任。2024年4月からJ清水のGM。


















