人生のどん底から救ってくれた保護猫と過ごした日々「キジトラのテコ」船ヶ山哲著

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「キジトラのテコ」船ヶ山哲著

 20年前、サラリーマンだった著者は、ストレスからうつ病を患い、自殺未遂。その人生のどん底から救ってくれたのが、本書の主人公である保護猫のキジトラ・テコだった。

 過酷な環境のなかで生きてきた野良猫のテコは、施設の人に保護されたが、保護先でもなじむことができなかった。そんな1人と1匹が出会い家族となった。

 本書は、1人と1匹が過ごした14年間の軌跡をつづったベストセラー「捨てられた僕と母猫と奇跡」をテコの視線でつづったフォトエッセー集。

 親の記憶もなく、野良で育った「わたし」は、気が付けば3匹の子猫のママになっていた。初めての家族だが、誰も頼ることができず、安心できる寝床もなく、不安だらけで子育てをしていた。

 子猫と共に写った保護当時の写真を見ると、テコ自身がまだ子猫のようで、あどけなさが残っている。

 やがて「わたし」は、パパさん(著者)と出会い、引き取られ「テコ」と名付けられるが、最初はまたいじめられるのではないかとビクビク。どこに連れてこられたのかもわからず、知らない人に見つめられ、怖くて、ひとまず隙間に身を隠す。

 また同じ人が現れて、今度は棒でつついてきた。テコはこころの中でつぶやく「わたしをいじめようとしているのかな? でもこちょこちょするだけで痛くない、もしかして遊んでいる?」

 やがてパパさんとの生活に慣れたテコは、初めて食べる「お菓子」(キャットフード)のおいしさに目覚め、ソファでリラックス。

 留守番も得意になり、パパさんが帰ってくれば、遊びを催促するようになる。

 その変化は、写真に写るテコの表情からもわかる。

 どこか体をこわばらせ、恐る恐るこちらをうかがうように見ていたテコが、ソファやラグ、椅子など部屋のあらゆるところで自分の居場所にして、くつろいでいる。

 そんな平穏を手にしたテコの日常に、再び不安が訪れる。パパさんに恋人ができたのだ。

 テコは、毎夜、帰宅が遅くなるパパさんに、もしかして自分のことが嫌いになったのかとさえ考える。

 そしてパパさんが連れてきた人を警戒する。

 構ってくれないパパさんを、こっちを向かせようと、布団の上でおしっこをしてみる。おしっこは、テコの「構って」の合図なのだ。

 大切なものを奪われる予感を抱き、またひとりぼっちになるのではと落ち込む。

 やがて、パパさんに子どもが生まれ、臆病なテコは寿命が縮む思いをする。

 そんなテコの目線でパパさん、そしてパパさんの家族との日々を追憶。

 それは出会いから14年1カ月と22日続き、テコからパパさんへのお別れのことばで締めくくられる。

 くるくると変わる写真の表情から、まるで本当にテコがしゃべっているようにさえ感じられる。

 言葉が通じなくても深く深くつながったパパさんとテコ。パパさんが代わりに記した、その言葉はやはりテコの本心なのだろう。

(KKベストセラーズ1650円)

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