大村崑さんが語る三木のり平先輩との1枚 「鼻メガネ」はお互いのトレードマークでした

公開日: 更新日:

大村崑さん(コメディアン・俳優/90歳)

「うれしいとメガネが落ちるんですよ」のオロナミンCのCMをはじめ、バラエティー、ドラマなどで喜劇人として大活躍した大村崑さんがトレーニングで鍛えた日々とその姿を楽しくつづった「崑ちゃん90歳 今が一番、健康です!」を上梓した。まさに“元気ハツラツな崑ちゃん”に人生の思い出に残る三木のり平さんとの一枚を語ってもらった。

  ◇  ◇  ◇

 三木のり平さんは7歳上で、はじめは「先生」と呼んでいましたが、「俺は先生じゃねえや」と言われて、三木先輩とかのり平先輩とか呼んでいました。

 初めてお会いしたのは大阪の北野劇場でした。舞台の階段の途中でメークしていた先輩と目が合ったので、「北野劇場の専属の大村崑と申します」と挨拶したら、「君か、大阪に俺とよく似たやつがいるってウワサの。聞いてたぞ」と声をかけてくれて、以来、長くお付き合いさしていただきました。

 勉強もさしてもらいました。先輩は長ゼリフをものすごく流暢にやるんですよ。どうしてんのかと思って見ていたら、ある単発ドラマで、人にわからないように短冊に長いセリフを書いて、つまりあんちょこを見ながらやっていました(笑い)。

 喜劇人の集まりで「白浪五人男」を東京でやったことがありました。傘を持って1人ずつ名乗るシーンでは先輩が長いセリフを朗々と読みあげて拍手喝采です。舞台が終わってから挨拶に行くと、先輩は楽屋まで傘を持って来てましてね。「なんで持ってきたんですか」と聞いたら隠そうとする。おかしいなと思って見たら、傘の裏一面に紙が張ってあった。傘を開いた時に下から見上げて上に向かってわかるように、セリフを書いた紙が張ってあった。

「南郷力丸こと三木のり平」というセリフまでは書いてあって、最後に正面を向いて、「三木のり平とは俺のこった」と見えを切る……。カッコよくね。先輩に「これ、ご自分で書いたんですか」と聞いたら「悪いか」って(笑い)。本当に面白い方でした。

 今回の写真は「頓馬天狗」の時のものです。僕が、姓は丹下、名は左膳の「鞍馬天狗」のパロディーとして、姓は尾呂内、名は南公の「頓馬天狗」(1959年、大塚製薬1社提供)の主演をやることになって、脚本家の花登筺先生と、「お父さん役をやってください」と三木先輩に頼みに行ったんです。

 そしたら「そうか、崑ちゃん、ドラマの主役をやるのか、それならやってやる」と喜んでくれまして。お互いに鼻メガネで写真を撮ったのがこの一枚なんですよ。

 三木先輩はその前から桃屋の江戸むらさきのCMで鼻メガネのキャラクターが受けてすごい人気でした。僕がオロナミンCの鼻メガネのCMで人気になる何年も前のことです。

「俺はメガネでおまえに負けた」と言われた“事件”が

 この鼻メガネには“事件”がありましてね。僕も出た三木先輩の大阪の公演があって、ハネた後に今里で一杯飲もうと言われて、行きました。立派な料亭で、何人かでごちそうになっていたら、芸者が2人遅れてきたんです。だれの席か聞いてなかったんだろうね、芸者は僕がこっちにいるのがわかってるのに、三木先輩の前で「崑ちゃ~ん」とやっちゃった。

 それで先輩が怒っちゃって、テーブルをひっくり返して「俺は崑ちゃんじゃないや、この野郎」と言って、窓から飛び出し、2階の屋根の上を走り出した。若い衆が追っかけていって事なきを得ましたがね。

 それで何日かして僕は菓子折りを持って、先輩の四谷(東京)の家に謝りに行きました。先輩は「テメエが悪いんじゃねえや。芸者が間違えたんだから。でも、俺は金輪際、メガネをかけない。崑ちゃんと間違えられるってことは、俺はお主に負けたんだから。テレビでもドラマでもメガネはかけない。これからはメガネをかけない三木のり平を見てくれ。君はメガネでいけ」と、謝りに行ったのに、お墨付きをもらいました。

 先輩は僕の弟子のことまで気にかけてくれるような優しい人で、演出家としても神経がこまやかだった。お酒が好きで強かったけど、サービス精神も旺盛で、みんなを喜ばそうとするから、酔っぱらってそのうち人が変わったように、キレたこともあったね。

 亡くなった時、お通夜にうかがったら、胸の上に立派な短刀が置いてありました。独特の大きな鼻が見えて今でも起き上がり、声を上げながら短刀を振り回すような気がしました。でも、静かに眠ってらして。それが悲しくて、あの時はすごく泣きました。先輩は本当に尊敬できる喜劇人であり、演出家でした。

筋トレでムキムキ「崑ちゃん90歳」

 86歳からライザップで筋トレを始めました。最初はクソまじめだったトレーナー、僕はスーパーマンと呼んでるけど、彼は面白い男になってくれてトレーニングに付き合ってくれます。スクワット、バーベル、ダンベル……。バーベルなんか調子がいい時は40キロ担ぐ。おかげで92センチだったウエストは79センチに、お腹はペチャンコです。体重も今日は55.3キロ。80歳代になった頃は、僕のこと、みんな知らんぷりしてたのに、筋トレをやって、半年前から「90歳」と言った途端に、二度見されて「どんなこと、すんですか」と聞いてきます。その時は笑かしながら話してあげます。

(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ)

■11月20日発売「崑ちゃん90歳 今が一番、健康です!」(青春出版社) 

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  2. 2

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  3. 3

    阪神・佐藤輝明が“文春砲”に本塁打返しの鋼メンタル!球団はピリピリも、本人たちはどこ吹く風

  4. 4

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も

  5. 5

    広末涼子「実況見分」タイミングの謎…新東名事故から3カ月以上なのに警察がメディアに流した理由

  1. 6

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃

  2. 7

    国保の有効期限切れが8月1日からいよいよスタート…マイナ大混乱を招いた河野太郎前デジタル相の大罪

  3. 8

    『ナイアガラ・ムーン』の音源を聴き、ライバルの細野晴臣は素直に脱帽した

  4. 9

    初当選から9カ月の自民党・森下千里議員は今…参政党さや氏で改めて注目を浴びる"女性タレント議員"

  5. 10

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」