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松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

映画「パスト ライブス/再会」の“大人のラブストーリーの最高傑作”なる惹句に待った!

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 この作品を「恋愛映画」ではなく「移民映画」と位置づければ、多くの鑑賞者から名場面認定を受けている終盤のノラの号泣シーンも違って見えてくるはずだ。号泣の理由はきっと「忘れられない恋」といったシンプルなものではない。おそらくそれは、恋よりもっと大きなもの。12歳での移民体験と異郷生活で肥大化させたインナーアダルト(知識、思考など)。逆にずっと封じ込めてきたインナーチャイルド(感情、感覚など)。

 そもそも危うかった両者の不自然な均衡が決壊し、号泣という形で表面化したのではないか。韓国少女ナヨンの元々の性分はクライベイビー(泣き虫)。それをノラという英語名のもとに無理矢理メタモルフォーゼ(変態)させてきたが、ヘソンとの再会によってその無理が解けたのだ。なぜなら彼は歩く〈祖国〉だから。今では母親としか韓国語を使う機会もないノラは、意図的に祖国と距離をとってきた。移住は親の都合だが、その後の人生は自分で選び、自分の足で歩んできた。それでもインナーチャイルドは消えていなかった。完全に飼い慣らせてはいなかった。ノラがいとしい。三太くん、お連れ合いが泣いたのはこれがラブストーリーだからではないんじゃないかな。

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