著者のコラム一覧
小堀鷗一郎医師

1938年、東京生まれ。東大医学部卒。東大医学部付属病院第1外科を経て国立国際医療センターに勤務し、同病院長を最後に65歳で定年退職。埼玉県新座市の堀ノ内病院で訪問診療に携わるようになる。母方の祖父は森鴎外。著書に「死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者」(みすず書房)。

死を身近に感じたことで…訪問診療医が実感した「新型コロナ」の教訓<下>

公開日: 更新日:

「発熱時に対する不安を口にする人が増えました。それで私は、PCR検査の基準や指定医療機関のことに始まり、救急車を要請しても迅速な受診が見込み薄であること、陽性ならば面会が制限されること、陰性で全身状態が安定していれば自宅療養の可能性が高いことなどを説明するようになったのです」

 その結果、治療計画を変更する人もいた。老老介護する妻の負担を考え、緩和ケア病棟への入院を検討していた末期がんの男性患者(89)のケースである。

「夫はほぼ寝たきりで、妻は認知力が低下していました。妻主導の介護は厳しい状況でコロナの流行前から入院を考えていたのですが、予定していた病棟はコロナ対応で面会制限を設けました。そのため、入院が今生の別れとなる可能性が生まれたのです」

 そこで入院を回避し、ケアマネジャーによる手厚い介護のもと、自宅療養をすることになった。患者は5月下旬に亡くなったが、その前日には娘が遊びに来て、当日は入浴サービスを受け、リンゴのすりおろしも数さじ味わったという。穏やかな最期だった。

「現在は未知のものに対する恐怖から過度な対応が目立つように思いますが、もともと死はごく身近に存在するものであり、そのことを意識する者だけが自らの死に思いを致すことができるのです」

 死はいずれ誰にでも訪れるものだ。事故などで予期せず逝ってしまうこともあるが、多くの場合、どのように迎えるかを自分で選択できる。コロナの流行を無駄にはしたくない。

(おわり)

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  3. 3

    サントリーHD会長を辞任!新浪剛史氏の意外な私生活、趣味は「極妻」鑑賞と…違法薬物めぐり家宅捜索

  4. 4

    佐々木朗希、「9月限りで今季終了」に現実味…WS連覇へ一丸のドジャースでひとり蚊帳の外

  5. 5

    ドジャース大谷翔平に深刻な疲労蓄積…安打も本塁打も激減、「明らかにスイング鈍化」との指摘も

  1. 6

    巨人に漂う不穏な空気…杉内投手チーフコーチの「苦言連発」「選手吊るし上げ」が波紋広げる

  2. 7

    サントリーHD新浪会長宅ガサ入れはすでに噂されていた? 報道より1週間先行していたX投稿に注目集まる

  3. 8

    ロッテ佐々木朗希の「豹変」…記者会見で“釈明”も5年前からくすぶっていた強硬メジャー挑戦の不穏

  4. 9

    《浜辺美波がどけよ》日テレ「24時間テレビ」永瀬廉が国技館に現れたのは番組終盤でモヤモヤの声

  5. 10

    開示された3回目の「森友文書」で発覚! 財務省「黒塗り」の“お寒い”内情