心不全で救急搬送を経験…作家・花房観音さん「人通りのない場所だったら死んでいた」

公開日: 更新日:

花房観音さん(作家/52歳)=心不全

 更年期障害だと思っていたら、「心不全」を起こして救急車で運ばれてしまったお話です。去年の5月のことです。

 歩いているだけで息苦しさを感じるようになったのは、その1カ月前ぐらいでした。でも、決定的なことがなかったので病院に行くことはなく、脚がひどくむくむなどしても、すべて「更年期障害」と思うようになっていました。

 決定的なことが起こったのは和歌山県の熊野へ一人旅をして、足をパンパンにむくませて京都に帰ってきた翌日です。翌週に出版イベントを控えていたので、“まつエク”(まつげの美容院)に行き、その帰りのバスの中で普通じゃない息苦しさに襲われたのです。

 このままではバスの中で倒れてしまうと思い、バスを降り、救急車を呼ぼうと考えました。降りたのは四条烏丸の繁華街。スマホはかばんの中にあったのですが取り出すこともできず、「119」が思い出せず、バス停のベンチにうずくまっていると、バス待ちの女性とバスの整理係の方が声をかけてくれて、救急車を呼んでもらったのです。もし、人通りのない場所だったら、あのまま死んでいたと思います。

 もうろうとする意識の中、救急車が来て、病院に運ばれてまず、鼻に綿棒を突っ込まれてPCR検査をされたのを覚えています。身元の確認をされ、「あなたの病名は心不全です」と告げられました。「死因でよくあるやつだ」と他人事のように聞いていたのですが、続けて「ICUに行きます」と言われたとき急に現実に引き戻され、「ICU? そんなに重症なんだ私」とびっくりしました。

 後から聞いた話では、心臓の一部が動いていなかったそうです。心臓のポンプ機能が動いておらず、脚がむくんでいたのです。気付くと、指先には酸素濃度測定器がついていて、心電図、点滴、尿道カテーテル、酸素吸入器で管だらけになっていました。

 どのくらい経ったか、少し楽になったところで決まっていた出版イベントや出演予定のラジオ番組関係者に平謝りのLINEをしました。コロナ禍で面会禁止だったので、友人知人はもちろん、高齢の両親にも忙しい夫にも面倒をかけずに済んで、私にとってはありがたいことでした。

 心臓カテーテルで調べていただいた結果、血管には問題がなく、倒れた原因は高血圧ということでした。運ばれた当初は、血圧が200(㎜Hg)近くにもなっていたそうです。

 さらに初期の糖尿病が認められ、食事は塩分や糖分を控えたものでした。でも、その病院食がおいしかった。糖尿と聞いたときには、「あ~、味気ない食事しか食べられないのか」と思ったんですけど、ショウガやユズが利いていて、普通の食事と遜色ありませんでした。むしろその薄味に慣れたので、家に帰ってきて買い置きのスープを飲んだら、濃すぎて飲めなくなりました。

 2日間ICUにいて、3日目にICUの個室に移され、そこから一般病棟の個室と大部屋を渡り歩いて、全12日間の入院生活を終えました。3食きちんと完食していたのに、体重は7キロ減っていました。それほどむくんでいたということです。

人込みに出るのが怖い

 入院中は、看護師さんが毎日、体重と体脂肪、血圧を測ってくれて、飲んだ水分量もしっかり管理されていました。退院時には栄養士による指導がありましたし、心不全を経験した人がやっていいこと、いけないことなどがびっしり書かれている「心不全手帳」や、退院後の記録を付ける「心不全記録手帳」も手渡されました。心不全手帳には「夫婦生活について」の項目もあって、バイアグラはNGとか、「ほほ~」と興味深く読みました(笑)。

 退院してすぐに記録できるように、病室で血圧計と体組成計、ついでに減塩食の冷凍弁当も注文しました。

 もう一つ入院中にやったことは、この入院体験の記録です。なんとかして入院費を稼がなくちゃという作家根性で、見たこと、聞いたこと、やったこと、思ったことなどを毎日ノートに書きまくりました。そしてICUを出た頃にお世話になっている出版社に連絡をとり、事情を話して、「これをエッセーとして連載させてくれませんか?」と売り込んだのです。見事、退院後からの連載をゲット。実は、この10月にはそれが単行本になります。

 病気後は、無駄な人付き合いをしなくなりました。風邪でも重症化するリスクを持ってしまったので、人混みに出たり、人と会って話をするのが怖いのです。人の密集する狭い空間は特に避けています。

 でも、今は倒れる前の不調がウソのよう。病院の先生方に「運動してください」と言われたので、ジムに通い始めたのがいいようです。トレーナーに病気を考慮したメニューを作っていただいて、筋トレと有酸素運動に励んでいます。おかげさまで、血糖値も血圧も数値がよくなって、山盛りだった薬の量が半年ぐらいでグッと減りました。

 塩分や糖分は、取り過ぎないように意識する程度。厳密にやろうとするとストレスになりますからね。ほんと、ストレスを感じると如実に血圧などの数値に出ます。つくづく「ストレスは人を殺すなぁ」と思うようになりました。

(聞き手=松永詠美子)

▽花房観音(はなぶさ・かんのん) 1971年生まれ、京都府在住。京都女子大を中退し、映画会社や旅行会社などでの勤務を経て、2010年に「花祀り」で団鬼六賞大賞を受賞し、作家デビューを果たした。官能小説、ホラー小説、エッセーなどを執筆する。10月には自身の入院体験をつづったエッセーが単行本として発売される。



■本コラム待望の書籍化!愉快な病人たち(講談社 税込み1540円)好評発売中!

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本中学生新聞が見た参院選 「参政党は『ネオナチ政党』。取材拒否されたけど注視していきます」

  2. 2

    松下洸平結婚で「母の異変」の報告続出!「大号泣」に「家事をする気力消失」まで

  3. 3

    松下洸平“電撃婚”にファンから「きっとお相手はプロ彼女」の怨嗟…西島秀俊の結婚時にも多用されたワード

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    俺が監督になったら茶髪とヒゲを「禁止」したい根拠…立浪和義のやり方には思うところもある

  1. 6

    (1)広報と報道の違いがわからない人たち…民主主義の大原則を脅かす「記者排除」3年前にも

  2. 7

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も

  3. 8

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃

  4. 9

    自民党「石破おろし」の裏で暗躍する重鎮たち…両院議員懇談会は大荒れ必至、党内には冷ややかな声も

  5. 10

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」