(21)入院から3カ月…ようやく“会えた”母は表情を失っていた

公開日: 更新日:

 母が認知症専門医院に入院してから、携帯電話はナースステーションで預かる形になっていた。電話をしても、看護師が気がついてくれなければつながらず、母と直接話すことはほとんどできなかった。

 母の入院生活は、身近な人とほとんど接触することのないまま、3カ月が過ぎようとしていた。母は急に知らない人ばかりの場所に連れてこられ、なぜ自分がそこにいるのかわかっているのだろうか。知っている人が誰も自分を訪ねてこないことに絶望していないだろうか。そんなことが気にかかって仕方ない。

 そんな折、病院からZoomでの面会許可が出た。制限時間はわずか15分。画面越しに映し出された母は、白髪がのび放題で、肌はくすみ、頬がこけていた。表情はなく、うつろな瞳でこちらを見ている。

 私の声が届いているのかどうか、かすかな反応しかない。その姿は、まるで何かを失い続けている途中のように見えた。人はこんなにも急に、今まで生きてきた世界から断絶してしまうのだ。

 母は家に戻ることができるのだろうか。実家では、父が1人で暮らしている。だが、父自身も自分の生活すらまともに維持できているのか怪しい。母が退院して戻ってきたとして、誰が介護をするのか。父には無理だろう。4匹の猫たちもいる。私は東京にいる。この状況で、母の居場所をどうすればいいのか。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本は強い国か…「障害者年金」を半分に減額とは

  2. 2

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  3. 3

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  4. 4

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  5. 5

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  1. 6

    侍Jで加速する「チーム大谷」…国内組で浮上する“後方支援”要員の投打ベテラン

  2. 7

    石破前首相も参戦で「おこめ券」批判拡大…届くのは春以降、米価下落ならありがたみゼロ

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    高市政権の物価高対策「自治体が自由に使える=丸投げ」に大ブーイング…ネットでも「おこめ券はいらない!」