(30)どの施設ならいいのか…判断材料はほとんどなかった
母がどのような施設なら無理なく暮らせるのか。入所後に医療的なケアがどれくらい必要なのか。月々どの程度の予算を見込んでおくべきなのか。判断材料がほとんどなく、具体的な像を描くことは難しかった。なにより、頼りになるのは母が今後もらうことになる遺族年金のみ。その金額すらまだあやふやだったのだ。
さらに、その時点ですでにケアマネジャーに相談できる状況だということすら知らなかった。介護保険制度では「要支援1~2」に認定された場合は地域包括支援センターが介護予防ケアプランの作成を担当し、「要介護1~5」に認定された場合は、ケアマネジャーがついてケアプランの作成やサービスの調整を無料で行う仕組みになっている。母は「要介護2」だったため、本来であればすでにケアマネジャーを選任できる段階に入っていたことになる。
加えて、この頃はまだコロナ禍のただ中だった。施設見学はどこも受け入れておらず、現地に足を運んでの確認は不可能だった。母がこの先どこで暮らしていくのか。現実的な選択肢を探すはずの段階で、私の前には大きな関門がいくつも立ちはだかっていた。 (つづく)
▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。