(36)「最善の施設を選んだのだ」と自分に言い聞かせた
もっとも重要だったのは、実家に近い場所にあることだった。母は長年、同じ地域で暮らしてきた。正確な位置を把握できなくなっているとしても、慣れ親しんだ周辺環境の中で生活するほうが安心感につながるのではないかと考えた。
仮申し込みを済ませた施設は、条件と予算を満たしていた。コロナ禍の影響で事前の見学はできなかったが、通院付き添いの有無、居室の設備、費用などを電話で確認していた。電話対応も明快で、質問にも一つずつ丁寧に答えてもらった。すでに必要書類も取り寄せ済みだった。
下見ができないまま選ぶという不安はもちろんあった。ただ、限られた条件の中で判断するしかない以上、情報収集と対応の過程で得られた印象を頼るしかなかったのだ。今、取れる最善の選択をしたのだと私は自分に言い聞かせた。
それからは毎日、空きが出たという連絡を待っていた。タイミングは予測できなかったが、いつ入所が決まっても対応できるよう備えておく必要があった。それまで入院していてもいいと病院が言ってくれたことが、本当にありがたかった。 (つづく)
▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。