著者のコラム一覧
田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

麻布学園・平秀明校長に聞く コロナ禍でトップ進学校に生じた変化

公開日: 更新日:

 新型コロナウイルスの感染者が日本で初めて確認されたのは2020年1月16日だが、この年の大学受験戦線に影響を与えることはほとんどなかった。大学受験における実質的なコロナ元年となった21年、逆境をものともせず、V字回復を果たした進学校がある。都内私立男子中高一貫校「御三家」の一角を占める麻布中学・高校(1学年生徒数約300人)である。

 20年の東大合格者数は66人。前年の100人(全国3位)から大きく落ち込んだが、6位に食い込み、1954年から続くトップ10だけは死守した。傍目にはそれほど悲観する結果とは思えないが、高3の学年会の教員陣はかなり落胆した様子だったという。

「麻布が70人を割り込むのは04年(68人、6位)以来。理系が思ったほど、ふるわなかった。この学年は真面目な生徒が多く、教員側も期待していたのですが」(学校関係者)

 だが、すぐにリベンジを果たす。21年の東大合格者数は86人で4位。トップ10入りは空前の67期連続(東大入試が中止だった69年を除く)である。麻布としては手放しで喜ぶほどの数字ではないにしても、コロナ対策がうまくいったことを示している。同じ御三家の開成(1学年約400人)は東大合格者数トップの座を守りながらも、20年185人から21年146人と大きく減らした。

すべてが手探り状態…生徒同士の間隔は1メートル以上

 麻布のコロナ対策が最初から万全だったわけではない。初めてのことだけに、すべてが手探り状態だった。20年3月、高校の卒業式は卒業生と教員のみで開催したものの、学年末試験、終業式、中学卒業式などは中止や延期を余儀なくされた。

 さまざまな行事が中止やペンディングに追い込まれる中、5月7日やっと、新年度を迎えた。しかし、政府の緊急事態宣言は継続されたままで、オンラインによる授業で対応するしかなかった。登校禁止措置を解除したのは6月1日。分散登校を開始した。東京都の動きに呼応したものだった。

「ただ、麻布は公立と違って、他県から通ってくる生徒もいる。最初は教員の側もおっかなびっくりのところがありました」と平秀明校長は振り返る。不安を払拭するために、衛生面の対策に加え、徹底した三密対策を実施した。

「高3は月曜日の午後というように、曜日によって学年ごとの登校日を設ける形で再開。1学年は7クラス。うちには講堂、大視聴覚室、卓球場、20年3月に完成したばかりの地下教室など、大きな空間を擁する建物や部屋が7つあったのが幸いしました。こうして、生徒同士の間隔を1メートル以上、空けることができる教室を確保したのです」(平校長)

 9月からは、中1~高3の生徒全員が毎日、登校する通常の形に戻した。授業も8時始まりで平日は6時限、土曜日は4時限。

「まずは感染を起こさないことを優先させていたわけですが、学校の存在意義は人と人が磨き合う場を提供することです。生徒は友人と遊んだり、クラブ活動に励み、教員は生徒と向き合って授業をする。それまでの週1回だけの登校では、そうした場面を大幅に削らざるをえなかった。やっと、学校本来の姿を取り戻すことができたのです」

学園の“最大イベント”文化祭だけは短縮して開催

 11月、生徒に4人の罹患者が出た。発生した日は別々で、学校内で罹患した様子はいずれもなかった。濃厚接触者も全員、陰性だった。港区の保健所から保健師が来て、学校内を見てまわったが、「衛生面は非常に行き届いている」と太鼓判を押した。

 クラスターも、これまで一度も起きていない。さまざまな行事を見送るなど、抑制的な姿勢を堅持した成果ともいえるが、20年度、ひとつだけ逆行する動きがあった。文化祭の開催である。例年、4月下旬から5月上旬の3日間、開かれてきた文化祭だが、その期間は登校禁止措置がとられていたため、開催はできなかった。延期して行うか否か。運動会は中止することが決まったが、文化祭については生徒からの要望も強く、結局、10月31日~11月1日、2日間に短縮して行うことになった。

 実は、文化祭は麻布の最大のイベント。その原点は終戦から5カ月しかたっていない1946年1月に開かれた「芸能祭」。のちに俳優として活躍する小沢昭一、加藤武、フランキー堺といった演劇部の面々が「娯楽がないなら自分たちでつくろう」と始めたのが最初である。翌年からは「文化祭」と名前を変え、今日まで続いている。

 とても人気の高いイベントになっていて、年によっては来訪者が2万人を超えることも。制限なく行えば、クラスターが起こる危険性も高い。20年度の文化祭は、在校生とその保護者に限って入場が許された。

「21年度は現在までのところ、コロナの陽性になった生徒は一人だけ。夏休み直前に判明したのですが、すでに試験休み期間中に入っていたので、濃厚接触者もいませんでした。非常に順調にきていることもあって、今年の文化祭(10月2、3日)には一般招待客の方にも抽選で人数を制限して、来ていただこうと思っています」(平校長)

 今の麻布からは、自信を取り戻している雰囲気がひしひしと伝わってくる。22年の大学受験戦線では、より一層の飛躍が期待できそうだ。

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