鶯谷「信濃路」は午後2時からカウンターでイビキをかく先輩のいる大衆酒場

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第55回 鶯谷(台東区)①

 上野の美術館でシュールレアリスムの展覧会をのぞいた。

 普段なら芸大裏から上野桜木あたりをぶらつき、谷根千のどこかで一杯といったところだが、今回は寛永寺橋を渡って鴬谷へ。

 この界隈は時代を超えて面白い。アタシら世代がその町名を知ったのは、鶴光さんの「うぐいすだにミュージックホール」という歌から。昭和50年のことだ。こんな名称のストリップ小屋が架空のものだと知ったのはずいぶん後、この街を利用するようになってからだ。

 その鴬谷駅の北口を出ると5軒ほどの酒場が並び、その上には元三島神社が鎮座している。そこを取り囲むようにラブホテルが密集し、路地裏には所在なさげな女性がポツンポツンと立っている。まさにこの辺りは聖も俗も併せ持つ場所だ。今回はそこで昭和47年創業の「信濃路」を訪ねた。

■朝から日本酒でも後ろめたさは皆無

 以前、蒲田店を取材したことがあるが、鴬谷店は別物だ。店の大きさは言うまでもなく、メニューが豊富だし、朝から飲んでいる人が圧倒的に多い。ここなら朝から日本酒をやっても後ろめたさを感じない。

 入って右側にテーブル席。のぞくと複数の客で賑わっている。アタシは左側のカウンター席に陣取る。カウンター奥には女子を交えた3人の若者たちがいるが、こちら側は一人客中心だ。

“中華丼のアタマ”がうまい

 みんな静かにスマホを見ながら飲んでいる。その光景は普通の酒場と変わらない。が、カウンターに突っ伏してイビキをかいている先輩が1人いる。まだ14時。そこは信濃路らしい。そんな先輩を横目にアタシはキリンの大瓶(590円)と野菜うま煮(350円=写真)を頼んだ。要するに中華丼のアタマ。これがうまい。

 厨房の中ではインド、中国、日本の店員さんたちがてきぱきと動いている。共用語は日本語。お運びの中国人らしいお姉さんにコロッケ(150円)とホッピー(410円)、さらにウインナー炒め(400円)を注文。右隣の兄さんがナポリタンなら、左側の同輩はオムライス。どうやらシメのようだ。どちらもうまそう。信濃路を酒も飲める立ち食いそば屋だと勘違いしている人が多い。確かに以前取材した蒲田店はそばとうどんの店として創業し、酒やつまみも出すようになった。

 が、鴬谷店は創業当初から大衆酒場としてスタートしている。創業家の伊東さんが話してくれた。客層も昔からの人に加え、若い人たちが増えているという。

「テーブル席の方には喫煙エリアを設けたりして、老若男女問わず多くの方にご満足いただけるようにしています。また、西村賢太さんのファンの皆さんなど、お客さまの輪が広がっているようです」

 前回の京都の酒場も捨てたものではないが、割烹とか居酒屋といったジャンルを軽々と飛び越えてしまう信濃路は酒場としては稀有な存在だろう。何かとジャンル分けして型にはめたがる風潮だが、はまらないモノもあるのだ。この店を愛した故・西村賢太も型にはまらない人生を送った作家だった。お互い引きつけ合ったのかもしれない。

(藤井優)

○信濃路鴬谷店 台東区根岸1-7-4 元三島神社1階

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