『大脱出3』が示した“地上波じゃ絶対無理”なお笑いの可能性。攻めたバラエティの生存戦略とは
『水曜日のダウンタウン』などを手掛ける藤井健太郎氏が企画・演出・プロデューサーを務めた『大脱出3』がDMMの総合動画配信サービス・DMM TVで9月3日から順次公開され、10月1日に大好評のうちに最終話が配信されました。
『大脱出3』は、安田大サーカス・クロちゃんらが出演する人気シリーズ第3弾。極限状態に置かれた芸人たちの爆笑の奮闘ぶりは今回も変わらずで、最後まで目が離せないものになっています。(※以下、一部ネタバレを含みます)
【関連記事】お受験界隈が「神回」と絶賛。藤本美貴、澤部ら芸能人はなぜ私立を目指す?『しくじり先生』で語られた“二世”息子の壮絶エピソード
バラエティの概念を覆す『大脱出』シリーズ
第1シーズンとなる『大脱出』では山深い田舎の土の中、『大脱出2』では無人島の砂浜に埋められたクロちゃん。今回の新作でも、壁に顔だけ出した状態で埋まり、しかもお尻が出た状態(?)で拘束されていました。
並行して繰り広げられているのが、謎の白い部屋に閉じ込められた芸人たちの謎解きゲーム。さらば青春の光の二人、みなみかわ&きしたかの高野ペア、ウエストランド井口&お見送り芸人しんいちペア、岡野&トム・ブラウンみちおペアが、各部屋ごとに出された難題に挑戦し、クリアに向けて頭を悩ませます。果たしてそれぞれの部屋から脱出し、クロちゃんを救出して、全員脱出ができるのか…?
ゲーム性もさることながら、何十時間も拘束され、極限状態に置かれた人間の壊れゆく様と、露わになる本能と狂気がこのシリーズの見どころです。特に第1弾ではよくある謎解きバラエティの概念を覆したパワープレイは爆笑必至でした。
どんな常識や価値観も無効化される
今回は、参加芸人たちも3回目となり、だいぶ慣れたのか、チームワークも強まり(特に井口&しんいちペアは、2よりも親密度が高く、ある意味萌えポイントに)、難題を要領よくこなせているように見受けられました。
それでも閉鎖的な環境で気がおかしくなるのか、後半になるにつれその狂気性はエスカレート。正気では考えられない常識外れの行動が連発します。結末の絵面は決して綺麗ではありませんでしたが、前作・前々作にはなかった深いテーマ性を感じさせるものとなっていました。
人間の自由への欲望の前では、どんな常識や価値観も無効化されるということを筆者は学びました。
下ネタ、タバコ…地上波ならクレーム殺到
体が埋まるクロちゃんや、お金や食べ物を粗末にする様、糞尿を垂れ流すなどの下ネタ、タバコ……。『大脱出』シリーズには、地上波であればクレームが殺到するであろう描写や表現が数多く見られます。
一方で、多少の見苦しい場面はあれど、時代のリミッターから外れた爆発的な笑いを提供してくれていることは確かです。有料のサブスクだからこそできる、見る人を選ぶ番組であることでしょう。
見たくない場面があれば、見ないという選択ができますし、もし見苦しい場面があったとしても見ることを選んだのは自分自身だという責任感もあり、特に作品に対して怒りはわきません。
時代遅れの「水着女子の騎馬戦」が生き残る道
先日、2016年にTBS系地上波で放映され、話題を呼んだ『芸人キャノンボール』が、U-NEXTに場所を移して復活するということが発表されました。『芸人キャノンボール』は、『大脱出』シリーズと同じ藤井健太郎氏が手掛けるスペシャル番組。
千原ジュニア、田村淳、有吉弘行、川島明らお笑い芸人が4チームに分かれて車で各地を駆け巡る借り物競争的なバラエティです。企画・出演者の信頼感もあり、こちらも面白いことは確実ですが、内容を見ると「水着女子の騎馬戦」「女子相撲」など、どこか女性が敬遠しそうな企画も多々あります。
「水着女子の騎馬戦」は、2016年版でも放映されていたお馴染みの企画ですが、今、地上波で放映となると、炎上は間違いなし。配信でやるのが精いっぱいの内容でしょう。
『芸人キャノンボール』が配信で放映という情報が公開された際、落胆する視聴者が多数いました。深夜でもいいから地上波で放映してほしいという声もSNSに溢れました。
しかし、時代の流れと共に消えゆく攻めたバラエティ企画を、テイストそのままで存続させるためには、配信に移行して成立させるのが精いっぱいなのかもしれません。
一方、配信コンテンツならではの問題点も
数々の有料コンテンツが配信に移行することで作品の質が維持、あるいは高まっていくのは喜ばしいことですが、やはりテレビで育った視聴者にとっては、寂しい部分があります。
一番が「感想や面白さの共有ができない」ということです。どんなに面白いコンテンツがあっても、ネタバレに気遣うあまり、具体的な感想が言えず、口コミやSNSなどで感動が伝播しづらい部分があります。
ネタバレは特に禁止されているわけではありませんが、マナー的な暗黙の了解と、「お金を払って見ていない人に面白さのタダ乗りはさせたくない」という微妙な心理が働き、話すことを躊躇わせている部分が心のどこかに生まれます。
かつて、面白いテレビがあれば次の日の学校や職場で話題になり、テレビや新聞のニュースも話題をとりあげ、その盛り上がりに一役買っていました。その結果、流行や誰もが知っているスターが生まれやすく、世間の中に一体感がありました。
木村拓哉主演ドラマも配信に移行
現在は、バラエティのみならず、今まで地上波で放映されていた野球・WBCやボクシングのタイトル戦、木村拓哉主演ドラマ『教場』の一部ストーリーまでもが、配信に移行しています。良質コンテンツが配信主流となりつつある今、配信を見られる人と見られない人とが分断され、文化や流行に格差が生まれている状況です。
興味のない番組やスポーツを「やっているから」ということで惰性で見ることはなくなりましたが、人々の共通言語や「たまたま見た番組が面白かった」というような偶発的な感動が消えてしまうのは残念でなりません。
これからも、多くのコンテンツが有料配信で放映されるようになると思います。地上波の制約から解放された優良な作品が産まれ、求めている人に届きやすい環境になるかもしれませんが、国民が一体となって盛り上がるような流行は、配信で作ることはできないでしょう。
寂しい部分はありますが、多様性重視・個人主義になってきた時代の流れとして当然のことなのでしょうね。
(小政りょう/ライター)


















